東武東上線を代表する車両の一つ、東武9000系。1981年の登場以来、東上線の顔として活躍し続けています。 この車両は、当時計画されていた営団地下鉄(現:東京メトロ)有楽町線との相互直通運転のために開発された、東武鉄道にとって画期的な車両でした。 東武初のオールステンレス車体や、省エネ性能に優れたチョッパ制御など、数々の新技術が盛り込まれました。
デビューから40年以上が経過した現在も、リニューアルを重ねながら第一線で活躍中です。 地下鉄副都心線を経由し、東急東横線、みなとみらい線まで足を延ばすその姿は、多くの利用者の目に触れる機会も多いことでしょう。この記事では、そんな東武9000系の誕生の背景から、試作車と量産車の違い、度重なる改造の歴史、そして現在の活躍まで、その魅力を余すところなく、やさしくわかりやすく解説していきます。
東武9000系とは?地下鉄直通のパイオニア
東武9000系は、東武鉄道が初めて地下鉄乗り入れを前提として設計・製造した車両です。 それまでの東武車両のイメージを覆す、多くの新機軸が採用されたエポックメイキングな存在でした。 ここでは、その誕生の背景や車両のバリエーション、基本的な性能について見ていきましょう。
地下鉄乗り入れ用として誕生した背景
1980年代、東武東上線は営団地下鉄(現:東京メトロ)有楽町線との相互直通運転を計画していました。この計画に対応するために開発されたのが9000系です。 乗り入れ先の地下鉄線内はトンネル断面が小さく、また駅のホーム長も決まっているため、車両の寸法や性能には厳しい規格が定められています。9000系は、そうした規格を満たしつつ、東武鉄道としての新たな標準を確立することを目指して設計されました。
大きな特徴として、東武鉄道で初めて車体に軽量ステンレスを採用した点が挙げられます。 これにより、車体の軽量化と長寿命化を実現しました。 また、制御方式には当時最新鋭だった「AFE主回路チョッパ制御」を採用。 これは、電力消費を抑えながらスムーズな加減速を可能にする省エネ技術で、回生ブレーキ(ブレーキをかけた時にモーターを発電機として利用し、発生した電気を架線に戻す仕組み)も併用されています。 このように、9000系は8000系以来18年ぶりの新系列として、まさに新時代の到来を告げる車両だったのです。
試作車と量産車の違い
東武9000系は、大きく分けて1981年に登場した試作車(9101F)と、1987年以降に製造された量産車(9102F~9108F)の2種類が存在します。 実際の直通運転開始は1987年ですが、乗務員の訓練などを目的に、約6年も早く試作車が1編成だけ先行して製造されたのです。 この試作車と量産車には、いくつかの違いが見られます。
外観で最も分かりやすい違いは、車体側面の仕上げです。試作車の9101Fは、補強のために波板状の「コルゲート」が貼られているのが特徴です。 一方、量産車(9102F~9107F)もコルゲート車体ですが、その後の技術の進歩を反映し、最終増備車である9108Fはコルゲートのないスッキリとした「ビードプレス」仕上げとなりました。 これは当時製造されていた10030系に準じた仕様です。
その他にも、側面行き先表示器の位置が、試作車では車端部にあるのに対し、量産車では中央部に移設されている点や、冷房装置の室外機の形状、前照灯ユニットの形など、細かな違いが各所に見られます。 内装も、試作車が当時の8000系に近い仕様だったのに対し、量産車は10000系に準じた仕様へと変更されています。
試作車9101Fは、後の副都心線対応改造の対象から外れ、2023年に引退するまで、ほぼ原型に近い姿で東上線内(地上線)専用として活躍しました。 そのため、鉄道ファンからは特に注目される存在でした。
9000系の基本スペック
ここで、東武9000系の基本的なスペックをまとめておきましょう。地下鉄直通用として、様々な規格に対応できる高い性能を持っています。
東武9000系は、地下鉄線内での急な勾配やカーブに対応しつつ、郊外の直線区間では高速で走行できる能力を兼ね備えています。設計最高速度は110km/hと、通勤車両としては十分な性能です。 また、加速度も3.3km/h/sと高く設定されており、駅間の短い地下鉄線内でもスムーズな運転が可能です。 編成は10両固定編成で、東武鉄道としては初めての採用でした。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製造年 | 1981年(試作車)、1987年~1991年(量産車) |
| 編成 | 10両固定編成 |
| 最高運転速度 | 100 km/h(東武線内)、110 km/h(東急線内) |
| 起動加速度 | 3.3 km/h/s |
| 減速度(常用) | 3.7 km/h/s |
| 車体 | 軽量ステンレス鋼 |
| 制御方式 | AFE式主回路チョッパ制御(現在はVVVF化改造済み ※9101F除く) |
長年にわたる改造とリニューアルの歴史

9000系はデビュー以来、時代の要請に合わせて様々な改造やリニューアルを受けてきました。特に大きな転機となったのが、2008年の東京メトロ副都心線との直通運転開始です。この対応工事をきっかけに、内外装ともに大きく姿を変えました。
副都心線対応改造と大規模修繕
2008年に開業した副都心線は、ATO(自動列車運転装置)によるワンマン運転が基本となるため、乗り入れ車両には対応する機器の搭載が必須でした。そこで、2006年から試作車の9101Fを除く全編成を対象に、副都心線乗り入れ対応の大規模な改造工事が実施されました。
主な改造内容は以下の通りです。
- ATO/ATC装置の搭載:副都心線・東横線でのワンマン運転に対応するための保安装置を搭載しました。
- 運転台のワンハンドル化:従来のツーハンドル式から、加速とブレーキを一つのハンドルで操作できるワンハンドルマスコンに変更されました。
- 行き先表示器のフルカラーLED化:視認性の高いフルカラーLEDに変更され、種別と行き先が同時に表示できるようになりました。
- パンタグラフのシングルアーム化:従来の菱形パンタグラフから、構造がシンプルで着雪にも強いシングルアーム式に交換されました。
- スカート(排障器)の設置:先頭車両の前面下部に大型のスカートが取り付けられ、精悍な顔つきになりました。
この改造により、9000系は見た目も性能も大幅にアップデートされ、新たな路線への活躍の場を広げることになったのです。 ちなみに、試作車である9101Fは、ドアの位置が量産車と微妙に異なっていたことなどが理由で、この改造の対象外となりました。 その結果、9101Fは地下鉄直通運用から離脱し、東上線内専用の車両として余生を送ることになります。
内装のリニューアル内容
副都心線対応改造と同時に、車内も大幅なリニューアルが施されました。その内容は、当時増備が進んでいた最新鋭の50070系に準じたものとなっており、古さを感じさせない快適な空間へと生まれ変わっています。
まず目につくのが、座席の変更です。座席は一人ひとりの着席スペースが明確になるバケットシートになり、モケット(表地の布)も青系の新しいデザインに交換されました。 また、座席間の仕切り板が大型化されたほか、壁面は白を基調とした化粧板に、床材もグレー系のものに一新されています。
バリアフリーへの対応も強化されました。各編成の2号車と9号車には車椅子スペースが新設され、ドア付近の床には黄色い点字ブロックが配置されました。 ドアの上には、次の停車駅などを知らせるLED式の車内案内表示器が千鳥配置(交互に設置)で取り付けられ、自動放送装置も導入されるなど、乗客への案内サービスが格段に向上しています。 これらのリニューアルにより、9000系は製造から数十年が経過した車両とは思えないほど、現代的な内装を備えることになりました。
制御装置の更新(VVVF化)
9000系はデビュー当初、省エネ性能に優れた「チョッパ制御」を採用していましたが、技術の進歩により、さらに効率の良い「VVVFインバータ制御」が主流となりました。そこで、9000系(9000型)も大規模修繕に合わせて、制御装置をVVVFインバータ制御に更新する工事が行われました。
VVVFインバータ制御は、電車のモーター(誘導電動機)に流す電気の電圧と周波数を自在に変えることで、よりきめ細かく速度を制御できるのが特徴です。これにより、さらなる省エネ化や乗り心地の向上、そしてメンテナンスの負担軽減といったメリットが生まれます。モーターが回転する際に発する「プーン」や「ヒュイーン」といった独特の磁励音は、このVVVFインバータ制御装置によるものです。
この更新工事により、9000系は走行性能においても現代の車両と遜色のないレベルに引き上げられました。なお、マイナーチェンジ車である9050系は、製造当初からGTO素子(初期のVVVF)を採用しており、その後IGBT素子(新しいVVVF)に更新されています。 試作車の9101Fだけは最後までチョッパ制御のままで、貴重な走行音を聞かせてくれる存在でした。
東武9000系の現在の活躍と運用範囲
大規模なリニューアルを経て、新たな活躍のステージに進んだ東武9000系。現在では東武東上線を飛び出し、都心から横浜方面まで、非常に広大なエリアでその姿を見ることができます。ここでは、現在の9000系の運用について詳しく見ていきましょう。
主な運用路線と乗り入れ先
リニューアルを終えた9000系(9101Fを除く)の主な活躍の場は、東武東上線(池袋~小川町)、東京メトロ有楽町線・副都心線、東急東横線、横浜高速鉄道みなとみらい線の5路線にまたがる直通運転です。
東上線の森林公園や川越市から出発し、和光市駅で地下鉄線に入り、有楽町線経由で新木場へ向かう列車や、副都心線経由で渋谷、さらにその先の東急東横線・みなとみらい線の元町・中華街まで向かう列車として運用されています。 この広大なネットワークの中で、多くの鉄道会社の車両とすれ違いながら走る姿は、相互直通運転のダイナミズムを象徴しています。
もちろん、地下鉄に直通せず、東上線内(池袋~小川町間)の地上運用に就くこともあります。 朝夕のラッシュ時から日中の閑散時間帯まで、一日を通して柔軟に運用されているのが特徴です。
2023年3月から東急新横浜線を経由して相鉄線との直通運転が開始されましたが、現在のところ東武9000系は相鉄線内には乗り入れていません。
地上線専用となった9101F
前述の通り、試作車である9101Fは副都心線対応改造が見送られたため、2008年以降は地下鉄線への乗り入れができなくなりました。 それ以降、引退するまでの約15年間は、東武東上線の池袋~小川町間を結ぶ「地上線専用車」として活躍しました。
量産車が次々とリニューアルされていく中で、9101Fはデビュー当時に近い姿を最後まで保ち続けた貴重な存在でした。 コルゲートが輝くステンレスボディ、原型に近い内装、そして今や珍しくなったチョッパ制御の走行音など、多くの魅力を持っていました。 そのため、運用情報をチェックしてわざわざ乗りに来る鉄道ファンも多く、多くの人々に愛された車両でした。
長年にわたり東上線を走り続けてきましたが、車両の老朽化には逆らえず、2021年6月以降は故障のため長期離脱。 その後、復活することなく2023年に静かにその役目を終えました。
運用される列車種別
東武9000系は、その高い性能を活かして非常に幅広い列車種別で運用されています。東武東上線内では、普通(各駅停車)、準急、急行、快速、快速急行といった「TJライナー」と「川越特急」以外の全ての種別で活躍します。
乗り入れ先の路線でもその実力は遺憾なく発揮されます。東京メトロ有楽町線・副都心線内では各駅停車から急行、通勤急行まで、そして東急東横線・みなとみらい線内では、特急や通勤特急といった優等列車としても運用されます。 東横線の特急は停車駅が少なく、日中の横浜~渋谷間を約25分で結ぶ速達列車です。9000系が東横線の線路を高速で駆け抜ける姿は、この車両が誕生した当初には想像もできなかった光景かもしれません。
このように、東武9000系は各駅停車から特急まで、様々な役割をこなせるオールラウンダーな車両と言えます。これは、設計当初から高いポテンシャルを持っていたことの証しです。
ファン必見!東武9000系の魅力と見どころ
デビューから40年以上が経過し、置き換え計画も発表されている東武9000系ですが、今なお多くの鉄道ファンを惹きつけてやみません。 その魅力はどこにあるのでしょうか。ここでは、ファンならではの視点で9000系の見どころをご紹介します。
シンプルながらも機能的なデザイン
東武9000系のデザインは、その後の東武鉄道のステンレス車両の基礎を築いたと言っても過言ではありません。 銀色のステンレス車体に、窓下に巻かれたロイヤルマルーンの帯。 このカラーリングは、特急車両で使われていた伝統の色であり、通勤車としては初めての採用でした。 シンプルでありながら、どこか気品を感じさせるこのデザインは、多くの人に受け入れられました。
前面は、運転席側の窓を大きく取った左右非対称のデザインが特徴です。 地下トンネル内での非常時を想定し、前面には貫通扉がオフセットして(中心からずらして)設置されています。 縦に並んだ角型のヘッドライトとテールランプも、当時の東武車両にはなかった新しい試みで、機能性を重視した力強い印象を与えます。
特に、量産車の中でも9107Fまでのコルゲートボディを持つ編成は、ステンレスの波板が光を反射して独特の質感を醸し出しており、無骨ながらも美しいと感じるファンは少なくありません。
今となっては貴重な「チョッパ制御」の音
現在、東武9000系のほとんどの編成はVVVFインバータ制御に改造されていますが、引退した試作車9101Fは最後までAFEチョッパ制御のままでした。 このチョッパ制御装置が発するモーター音は、VVVFの音とは全く異なり、「ブーン」という連続的な唸り音が特徴です。
VVVF化が進んだ現代において、大手私鉄でチョッパ制御の音を聞ける車両は非常に貴重な存在でした。 9101Fが走っていた頃は、その独特な走行音を楽しむために、わざわざ録音機材を持って乗車するファンの姿も見られました。発車時や減速時に響くチョッパサウンドは、昭和の終わりから平成の初めにかけての鉄道技術を今に伝える、まさに「走る産業遺産」とも言えるものでした。
残念ながら9101Fは引退してしまいましたが、VVVF化された量産車も、編成によってモーターのメーカーが異なるなど、聞き比べてみると subtle な違いがあり、音に注目してみるのも面白いかもしれません。
車内表示器や細部の違い
9000系は長年にわたって製造・改造が行われてきたため、編成によって細かな仕様の違いが多数存在するのも大きな魅力です。鉄道ファンにとっては、まさに「違いのわかる」楽しさがあります。
一番わかりやすいのは、車内の案内表示器です。前述の通り、リニューアル工事の時期によって、ドアの上の案内表示器が3色LED式の編成と、フルカラーLCD(液晶画面)式の編成があります。LCD式のものは「東武ダイレクトビジョン」と呼ばれ、広告動画なども放映できる高機能なものです。
さらにマニアックな点では、製造メーカーによる違いもあります。9000系は東急車輛、アルナ工機、富士重工業の3社で分担して製造されたため、よく見ると溶接の仕上げや内装の細かな部分に各社の特徴が現れています。 例えば、車内に取り付けられている製造銘板のプレートを見て、どこの会社が作った車両かを確認するのも楽しみ方の一つです。
このように、同じ9000系でも1編成ごとに個性があり、乗るたびに新たな発見があるかもしれません。こうした細かな違いを探してみるのも、東武9000系を楽しむ醍醐味と言えるでしょう。
まとめ:これからも活躍が期待される東武9000系

東武鉄道初の地下鉄直通用車両として、多くの新機軸を盛り込んで華々しくデビューした東武9000系。 登場から40年以上が経過した現在も、度重なるリニューアルによって時代のニーズに対応し、東上線だけでなく、東京メトロ有楽町線・副都心線、東急東横線、みなとみらい線という広大な路線網で第一線の活躍を続けています。
試作車9101Fは惜しまれつつも引退しましたが、残る量産車は今も日々の通勤・通学輸送を力強く支えています。2024年度の設備投資計画で新型車両による代替が発表されており、その活躍が見られる期間も残りわずかとなってきました。 シンプルで飽きのこないデザイン、そして幾多の改造を乗り越えてきた歴史の重み。もし東上線や乗り入れ先の路線で9000系を見かけたら、その力強い走りと、これまでの歩みに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。



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