785系電車は、1990年にJR北海道初の新製特急形交流電車としてデビューした車両です。
当時、道央自動車道の延伸開通により激化が予想された高速バスとの競争に対抗するため、最高速度130km/hでの営業運転を実現しました。 JRグループの量産型電車としては初めて「VVVFインバータ制御」という先進技術を採用し、その後のJR北海道の車両開発に大きな影響を与えました。
札幌~旭川間の特急「スーパーホワイトアロー」として華々しくデビューし、その後は「ライラック」「エアポート」「すずらん」など、北海道の主要都市を結ぶ特急列車として長年にわたり活躍しました。
本記事では、そんな785系電車の誕生の背景から、その特徴的な車両構造、華々しい活躍の歴史、そして引退までの道のりを詳しく、そして分かりやすく解説していきます。
785系電車の誕生と革新性
1990年に登場した785系は、当時のJR北海道が持つ技術の粋を集めて開発された、まさに新時代の幕開けを象徴する車両でした。それまでの国鉄時代から引き継がれた車両とは一線を画す、数々の新しい技術とデザインが盛り込まれていました。ここでは、785系がいかにして生まれ、どのような点が画期的だったのかを詳しく見ていきましょう。
JR北海道初の新製特急形交流電車としてデビュー
785系は、1987年の国鉄分割民営化後、JR北海道が初めて自社で開発・製造した特急形電車です。 当時、札幌~旭川間はJR北海道にとって重要な収入源となる「ドル箱路線」でしたが、道央自動車道が全線開通することになり、高速バスやマイカーとの競争が激しくなることが予想されていました。
この状況に対応するため、JR北海道は従来の781系特急電車に代わる、より高速で快適なサービスを提供できる新型車両の開発に着手しました。 こうして誕生したのが785系です。785系は札幌~旭川間(136.8km)を最高速度130km/hで走行し、所要時間をそれまでの1時間30分から1時間20分へと短縮することに成功しました。 この10分間の短縮は、都市間輸送における鉄道の優位性を示す上で非常に大きな意味を持っていました。1991年にはその先進性が評価され、グッドデザイン賞を受賞しています。
当時最先端の技術「VVVFインバータ制御」の採用
785系の最大の特徴の一つが、JRグループの量産型車両として初めてVVVF(可変電圧可変周波数)インバータ制御を採用したことです。 これは、電車のモーターを非常に効率よく、そして滑らかにコントロールするための装置です。
従来の電車は、抵抗器を使ってモーターに流れる電気の量を調節していましたが、この方法では電気の一部が熱として捨てられてしまい、エネルギーの無駄が多いという欠点がありました。しかし、VVVFインバータ制御は、電気の電圧と周波数(波の数)を自由自在に変えることで、モーターの回転数をきめ細かく制御します。これにより、エネルギーの無駄をなくし(省エネ)、発進から加速、減速までが非常にスムーズになるという利点があります。785系が130km/hという高速運転を実現できたのも、この技術のおかげと言えるでしょう。この革新的な技術は、後の789系などJR北海道の車両開発の基礎となりました。
登場時のVVVFインバータには「GTOサイリスタ」という素子が使われていましたが、2005年からのリニューアル工事で、より性能の高い「IGBT」という素子に交換され、さらなる性能向上が図られました。
軽量ステンレス車体と斬新なデザイン
785系の車体には、軽量なステンレス鋼が採用されました。 ステンレスは錆びにくく、塗装が不要なため、厳しい気候条件の北海道でのメンテナンスコストを抑えることができるという大きなメリットがあります。ただし、強度が必要な先頭部分は普通鋼鉄製となっており、両者を組み合わせた構造になっています。
デザイン面では、それまでの国鉄型車両のイメージを覆す斬新さが際立ちます。先頭部は大きな窓を持つ流線形で、スピード感を強調。車体にはJR北海道のコーポレートカラーであるライトグリーンの帯が巻かれ、爽やかで都会的な印象を与えました。運転台の上部にはLED式のトレインマークが設置され、カラフルに列車名を表示できるのも特徴でした。 このスタイリッシュなデザインは、多くの鉄道ファンを魅了し、新しい時代の特急列車の到来を強く印象づけました。
華々しい活躍の歴史を振り返る

1990年のデビュー以来、785系は北海道の主要都市を結ぶ大動脈で、四半世紀以上にわたって活躍を続けました。その道のりは、まさにJR北海道の特急列車の歴史そのものと言えるでしょう。ここでは、時代とともに役割を変えながら走り続けた785系の華々しい活躍を、列車名ごとに振り返ります。
特急「スーパーホワイトアロー」としての輝かしいデビュー
785系のデビューは、1990年9月1日に運行を開始したエル特急「スーパーホワイトアロー」でした。 この列車は、札幌~旭川間を当時の在来線特急としては国内トップクラスの表定速度(平均速度)102.6km/hで結び、所要時間を1時間20分に短縮しました。
これは、並行する道央自動車道に対抗するための切り札であり、JR北海道の都市間高速輸送にかける意気込みの表れでした。 それまで同区間を走っていた781系「ライラック」と合わせて30分間隔のダイヤ(30分ヘッド)を実現し、利便性を大幅に向上させました。 785系の投入により、「スーパーホワイトアロー」はビジネスや観光で両都市間を移動する人々にとって、速くて快適な移動手段としての地位を確立しました。
特急「ライラック」や快速「エアポート」での運用
「スーパーホワイトアロー」として順調に実績を重ねた785系ですが、2002年3月のダイヤ改正で大きな転機を迎えます。 この改正で、新千歳空港へのアクセス列車である快速「エアポート」の利便性向上が図られ、恵庭駅が停車駅に追加されました。
所要時間の増加を抑えるため、快速「エアポート」の一部列車も最高速度130km/hで運転されることになり、その運用に785系が抜擢されたのです。 これにより、旭川から札幌を経由して新千歳空港まで直通する「スーパーホワイトアロー」が誕生し、785系は空港アクセス輸送という新たな役割を担うことになりました。 また、長年活躍してきた781系が引退に近づくと、その運用を引き継ぐ形で、伝統ある特急「ライラック」としても一部運用されるようになりました。
快速「エアポート」から特急「すずらん」への転身
札幌~旭川間や新千歳空港アクセスで活躍を続けた785系ですが、後継車両である789系1000番台の登場や、快速「エアポート」の利用客増加に伴い、その役割は少しずつ変化していきます。2ドアの特急形車両である785系は、乗降に時間がかかり、混雑が激しい快速「エアポート」では遅延の原因となることもありました。
こうした背景から、785系は徐々に「エアポート」運用から撤退。そして、2007年10月のダイヤ改正からは、主に札幌~室蘭間を結ぶエル特急「すずらん」での運用が中心となりました。 これにより、活躍の舞台を道央の主要都市間から、工業都市・室蘭へと移すことになります。2017年3月に「スーパーカムイ」としての運用を終了してからは、引退まで特急「すずらん」専用車両として最後の活躍を続けました。
785系の車両編成と特徴的な改造
785系は、約27年間の長い活躍の中で、輸送需要の変化やサービス向上に対応するため、様々な編成の組み換えや改造が行われました。デビュー当初の柔軟な編成から、uシート導入に伴う5両固定編成化、さらには津軽海峡を渡る特急の増結用という特殊な改造まで、その変遷は多岐にわたります。
基本編成と付属編成の柔軟な組み合わせ
1990年のデビュー当時、785系は4両の「基本編成」が5本と、2両の「付属編成」が5本、合計30両が製造されました。 これらを組み合わせることで、需要に応じて4両、6両(4両+2両)、あるいは付属編成同士を連結した4両(2両+2両)といった柔軟な編成で運行することが可能でした。
通常、「スーパーホワイトアロー」は基本の4両編成か、多客期に付属編成を増結した6両編成で運転されていました。 このように、輸送量に合わせて編成を機動的に変更できる点は、効率的な運用を目指す上で大きなメリットでした。
| 編成タイプ | 両数 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 基本編成 | 4両 | スーパーホワイトアロー 通常期 |
| 基本編成+付属編成 | 6両 | スーパーホワイトアロー 多客期、一部のライラック |
| 付属編成+付属編成 | 4両 | 781系の代走など臨時的な運用 |
指定席「uシート」の導入とサービス向上
2002年3月の快速「エアポート」への本格投入に合わせて、785系には大きなグレードアップが施されました。それが、指定席「uシート」の導入です。 「uシート」は、従来の普通車指定席よりもワンランク上の快適性を目指した座席で、「余裕の旅をあなた(you)に」という意味が込められています。
この「uシート」車両(モハ784形500番台・モハ785形500番台)を組み込むため、既存の編成は大規模な組み替えが行われました。 結果として、全編成が5両固定編成に統一されました。 「uシート」の座席は、シートピッチ(座席の前後間隔)が1,050mmと広く、大型のリクライニングシートやパソコン用コンセント、チケットホルダーなどが装備されており、グリーン車に準ずる設備を誇ります。 このサービスは大変好評で、その後のJR北海道の特急車両や快速「エアポート」用車両の標準仕様となりました。
中間車の先頭車化と編成組み換え
「uシート」導入に伴う5両固定編成化の過程で、特徴的な改造が生まれました。元々、基本編成(4両)と付属編成(2両)は別々に製造されていましたが、これらを組み合わせて新しい5両編成を作る必要がありました。
特に、付属編成(2両×2本)を元にして作られた編成(NE-501、NE-502編成)では、元々先頭車だった車両が編成の中間に組み込まれることになりました。 当初は先頭車の姿のまま中間に入っていましたが、後に運転台としての機能は不要となるため、前照灯や運転台機器を撤去し、窓や乗務員扉を鋼板で埋める「中間車化改造」が施されました。 しかし、車体の形状は先頭車の面影を色濃く残しており、鉄道ファンにとっては非常に興味深い存在となりました。
特急「スーパー白鳥」用増結車両「785系300番台」
785系の改造の中でも特に異彩を放つのが、300番台の存在です。これは、5両編成化の際に余剰となり長期間保留車となっていた付属編成1本(2両)を、2010年に改造したものです。 目的は、青函トンネルを通り新青森~函館間を結んでいた特急「スーパー白鳥」で使われる789系0番台の増結用でした。
この改造は大規模なもので、789系と連結して走れるように、制御装置やブレーキ装置を789系と同じものに交換。最高速度も140km/hに引き上げられました。 外観も789系に合わせた塗装に変更され、片方の車両は運転台を完全に撤去して中間車(モハ785-303)になるなど、原型とは大きく異なる姿になりました。 北海道新幹線開業に伴い「スーパー白鳥」が廃止される2016年3月まで、津軽海峡線で活躍しました。
惜しまれつつ引退へ。その後の785系
北海道の高速鉄道網の礎を築き、多くの人々の足として活躍してきた785系ですが、デビューから四半世紀以上が経過し、ついにその役目を終える時が来ました。老朽化と後継車両の登場により、徐々に活躍の場を狭め、多くのファンに惜しまれながら引退していきました。
老朽化と後継車両の登場
785系が引退に至った主な理由は、車両の老朽化です。1990年のデビューから25年以上が経過し、厳しい北海道の気候の中で走り続けた車体や機器は、更新工事を重ねていたものの、物理的な寿命を迎えつつありました。
また、後継車両の登場も引退を促す大きな要因となりました。札幌~旭川間では、2007年に789系1000番台が「スーパーカムイ」としてデビュー。 さらに、2016年の北海道新幹線開業に伴い、津軽海峡線で「スーパー白鳥」として活躍していた789系0番台が道央圏に転用されることになりました。 この789系0番台が特急「ライラック」として札幌~旭川間で運用を開始したことで、785系は主力の座を完全に譲ることとなり、置き換えが進められました。
ラストランと多くのファンに見送られた最後
789系0番台の転用に伴い、2017年3月3日をもって785系は札幌~旭川間の特急「スーパーカムイ」としての定期運用を終了しました。 これにより、デビューから走り続けた花形路線から引退することになりました。
その後は、札幌~室蘭間の特急「すずらん」専用として2編成10両が最後の活躍を続けましたが、これらの車両も徐々に引退の時期が近づいていました。 多くの鉄道ファンは、最後の雄姿をカメラに収めようと沿線に集まり、長年の活躍をねぎらいました。特にラストランの際には、別れを惜しむ人々で駅のホームが賑わい、北海道の鉄道史に一時代を築いた名車との別れを惜しみました。
保存・解体の現状と受け継がれる意志
現役を引退した785系の車両の多くは、残念ながら解体されてしまいました。しかし、その功績を後世に伝えるため、一部の車両が保存されています。
具体的には、先頭車両が北海道グリーンランド(岩見沢市)や三笠鉄道記念館(三笠市)などで静態保存されており、今でもその美しい姿を見ることができます。これらの保存車両は、JR北海道の高速化の歴史を物語る貴重な遺産として、訪れる人々にその輝かしい歴史を伝えています。解体された車両たちの部品も、他の車両の補修などに活用された可能性があり、その魂は形を変えて北海道の鉄道を支え続けていると言えるかもしれません。
まとめ:未来へ駆け抜けた名車「785系」の記憶

この記事では、JR北海道初の新製特急形電車として、北海道の鉄道史に大きな足跡を残した785系について解説しました。
- 革新的なデビュー:JR北海道初のVVVFインバータ制御を採用し、130km/h運転で札幌~旭川間を1時間20分で結び、高速化時代の幕を開けた。
- 多彩な活躍:「スーパーホワイトアロー」としてデビュー後、「ライラック」「エアポート」「スーパーカムイ」「すずらん」と、役割を変えながら道央の主要路線で活躍。
- サービスの進化:ワンランク上の指定席「uシート」を導入し、その後のJR北海道の標準サービスを確立。
- 柔軟な改造:5両編成化や中間車化改造、津軽海峡線用の300番台への改造など、時代のニーズに合わせて姿を変えてきた。
785系は、単なる高速化を実現した車両というだけでなく、斬新なデザインと快適な室内空間で、特急列車のイメージを刷新しました。その技術とサービスへの挑戦心は、後継の789系などに確実に受け継がれています。今なお多くのファンに愛される785系の記憶は、北海道の鉄道がこれからも走り続ける限り、色褪せることはないでしょう。



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