JR東日本719系電車とは?特徴や歴史、現在の姿を分かりやすく解説

鉄道の仕組みと用語解説

JR東日本719系電車は、1989年(平成元年)に登場した交流区間専用の近郊形電車です。 国鉄時代から活躍していた急行形電車に代わり、仙台地区の輸送改善を目的として開発されました。 当時の最新技術を取り入れつつも、廃車発生品を再利用するなどして製造コストを抑える工夫が凝らされているのが特徴です。

2両編成を基本とし、ラッシュ時には複数連結して最大8両で運転されるなど、柔軟な運用が可能でした。 東北本線や仙山線、磐越西線といった東北地方の主要路線で長年にわたり活躍し、地域の足として親しまれてきました。 現在では多くの車両が引退しましたが、一部は観光列車に改造されたり、特殊な仕様の車両が今なお現役で走り続けていたりと、様々な形でその歴史を紡いでいます。

JR東日本719系電車の基本情報

まずは、719系がどのような電車なのか、その基本的な情報から見ていきましょう。登場した背景や、車両の性能、そしてどのような役割を担っていたのかを詳しく解説します。

719系が生まれた背景

1980年代後半、JR東日本発足当時の仙台地区では、主に国鉄時代から使われていた451系や455系といった急行形電車が普通列車として運用されていました。 これらの車両は、デッキ付きの2ドアクロスシートという構造で、長距離移動には適していましたが、朝夕のラッシュ時のスムーズな乗り降りには課題を抱えていました。 また、車両の老朽化も進んでおり、サービスの向上が求められていました。

そこで、都市圏の輸送事情に合わせた新しい車両として開発されたのが719系です。 乗り降りがしやすいように片側3ドアの車体を採用し、2両という短い編成を基本とすることで、日中の閑散時間帯からラッシュ時まで、需要に応じて柔軟に編成を組めるように設計されました。 これにより、輸送の効率化とサービス向上を両立させることを目指したのです。

車両の基本的なスペックと設計思想

719系は、首都圏で活躍していた211系電車をベースにした軽量ステンレス製の車体を採用しています。 これにより、車体の軽量化とメンテナンスの容易さを実現しました。制御方式には、713系で実績のあった「サイリスタ連続位相制御」を採用し、スムーズな加減速と回生ブレーキ(モーターを発電機として利用し、発生した電気を架線に戻すブレーキ)の使用を可能にしています。

一方で、製造コストを抑えるための工夫も見られます。特に0番台と呼ばれる標準的な車両では、台車に485系特急形電車の廃車発生品であるDT32形・TR69形を再利用しています。 新しい技術と既存の部品を巧みに組み合わせることで、性能とコストのバランスを取った車両と言えるでしょう。最高速度は110km/hで、当時の近郊形電車として十分な性能を持っていました。

サイリスタ位相制御とは?
交流の電気を直流モーターで使うために変換する際に、「サイリスタ」という半導体素子を使って電圧を滑らかにコントロールする方式です。これにより、ショックの少ないスムーズな加速が可能になります。

「シティ電車」としての役割

719系は、仙台という都市圏輸送を担う「シティ電車」としての性格を強く持っていました。その象徴が、片側3ドアの車体構造です。 従来の2ドア車に比べて乗降口が増えたことで、特に混雑する駅での乗り降りがスムーズになりました。 また、車内はセミクロスシートですが、ドア付近はロングシートにすることで、ラッシュ時の収容力も確保しています。

さらに、需要に応じて2両、4両、6両、8両と柔軟に編成を組める点も大きな特徴です。 これにより、利用者が少ない昼間は短い編成で効率的に、朝夕のラッシュ時には長い編成で輸送力を確保するという、きめ細やかな運用が可能になりました。 このような特徴から、719系は仙台地区の輸送改善に大きく貢献し、まさに「シティ電車」としての役割を果たしたのです。

719系電車の特徴的なデザインと車内設備

719系は、機能性だけでなく、デザインや車内設備にも多くの特徴があります。ここでは、その独特な外観や、利用者の快適性を考えた車内、そして東北の厳しい冬に対応するための装備について掘り下げていきます。

独特な前面デザインとカラーリング

719系の前面は、ベースとなった211系に似たデザインですが、よく見ると異なる点があります。 助手席側の窓が足元まで大きく拡大されているのが特徴で、これは213系電車などにも見られる設計です。 これにより、運転士の視界が広がり、安全確認がしやすくなっています。

ステンレスの銀色の車体に、緑色の貫通扉と、窓下に巻かれた赤・白・緑の3色の帯がアクセントとなっています。 このカラーリングは、当時の仙台支社のコーポレートカラーであり、東北の自然をイメージさせます。シンプルながらも洗練されたデザインは、多くの鉄道ファンに親しまれました。

使いやすさを追求した客室レイアウト

719系の車内で最も特徴的なのが、「集団見合い式」と呼ばれる独特な座席配置です。 これは、4人掛けのボックスシートと、窓側を向いた2人掛けの固定クロスシートを組み合わせたもので、他の車両ではあまり見られないレイアウトです。 1人からグループまで、様々な乗客のニーズに対応しようとした工夫が見て取れます。

内装は、クリーム色の化粧板にあずき色の座席モケットといった暖色系でまとめられており、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。 また、各車両にはトイレが設置されており、近郊輸送だけでなく、少し長めの距離を移動する際にも快適に過ごせるよう配慮されていました。

この集団見合い式の座席配置は、乗客同士の視線が合いやすいという特徴から、好みが分かれることもありました。しかし、4人グループで利用する際にはテーブルはありませんが、向かい合わせで座れるボックスシートが重宝されました。

寒冷地仕様ならではの装備

東北地方で活躍する車両として、冬の厳しい寒さや雪への対策は欠かせません。719系には、そうした耐寒・耐雪構造が随所に施されています。

その代表的な装備が、乗客がボタンを押してドアを開閉する「半自動ドア」です。 停車時間が長い駅でも車内の暖かい空気が外に逃げるのを防ぎ、快適な室温を保つことができます。また、ブレーキには雪が原因で起こる問題を軽減するための「耐雪ブレーキ」を装備しています。 さらに、一部の車両では、スカート(車体前面下部のカバー)を雪をかき分けやすい強化型に交換したり、雪に強いシングルアーム式パンタグラフに換装したりする改造も行われました。

各地で活躍した719系のバリエーション

719系には、基本的な「0番台」の他に、特定の路線や用途に合わせて仕様が変更された、個性豊かな仲間たちが存在します。ここでは、それぞれの特徴的なバリエーションについて紹介します。

標準軌に対応した5000番台(山形新幹線直通用)

719系の中で最も大きな違いを持つのが、5000番台です。 この車両は、山形新幹線の開業に伴い、新幹線と同じ線路幅(標準軌:1,435mm)に改軌された奥羽本線(通称:山形線)の普通列車用として1991年に登場しました。 JRグループの在来線用車両としては初の標準軌仕様車です。

基本的な車体構造は0番台と共通ですが、線路幅が異なるため、台車は新設計のボルスタレス台車(DT60形・TR245形)を装着しています。 また、外観の帯色も0番台の赤色部分が山形県の県花である「べにばな」をイメージしたオレンジ色に変更されているのが特徴です。 この5000番台は、急勾配が連続する板谷峠を越えるため、パワフルな走りを見せてくれます。

狭軌と標準軌って?
鉄道の線路は、2本のレールの内側の幅(軌間)によって種類が分かれます。日本のJR在来線の多くは「狭軌」(1,067mm)ですが、新幹線はより高速で安定して走れる「標準軌」(1,435mm)を採用しています。山形新幹線は、在来線の線路幅を新幹線と同じ標準軌に広げることで、新幹線車両がそのまま乗り入れられるようにした路線です。

磐越西線で活躍した「あかべぇ」塗装

2007年、磐越西線の郡山~会津若松間で活躍していた455系電車を置き換えるため、一部の0番台が転用されました。 この際、車両には会津地方の郷土玩具「赤べこ」をモチーフにしたマスコットキャラクター「あかべぇ」のステッカーが貼られ、帯色も一部変更されました。

具体的には、前面の貫通扉と帯が緑色から黒色に、側面の帯の上部が赤色に変更され、扉の横には可愛らしい「あかべぇ」のイラストが描かれました。 この親しみやすいデザインは、利用者や鉄道ファンから人気を集め、磐越西線の顔として親しまれました。 また、雪深い会津地方を走るため、パンタグラフを雪に強いシングルアーム式に交換したり、排雪性能を高めたスカートを装備したりといった改造も施されています。

お座敷列車に改造された700番台「フルーティアふくしま」

719系の中でも特にユニークな存在が、700番台「フルーティアふくしま」です。 この車両は、「走るカフェ」をコンセプトに、0番台(H-27編成)を改造して2015年に誕生した観光列車です。 列車名の「フルーティア」は、「フルーツ(Fruit)」と「ティー(Tea)」を組み合わせた造語です。

車内は大幅にリニューアルされ、1両(クシ718-701)にはカフェカウンターが設置されました。 ここでは、福島県産のフルーツを使ったオリジナルスイーツやドリンクが提供され、大きな窓から磐越西線の美しい景色を眺めながら、優雅なティータイムを楽しむことができました。 もう1両(クモハ719-701)は、ゆったりとした座席が配置された客席車となっています。 この改造に伴い、制御客車の形式記号に食堂車を示す「シ」がついた「クシ」という、国鉄時代を通じても初となる形式記号が登場したことでも話題となりました。

719系の運用と活躍の歴史

1989年の登場以来、719系は東北地方の様々な路線で活躍してきました。ここでは、主要な活躍の場であった各路線での歴史を振り返ります。

東北本線・仙山線での活躍

719系0番台が最初に投入されたのが、仙台地区の東北本線です。 黒磯駅から一ノ関駅までの広い範囲で、普通列車や快速「仙台シティラビット」として活躍しました。 3ドア車体と柔軟な編成組成能力を活かし、仙台都市圏の輸送を支える主力車両となりました。

また、仙台と山形を結ぶ仙山線でも主力として運用されました。 仙山線には狭いトンネルが存在するため、パンタグラフ周辺の屋根を一段低くした低屋根構造が採用されており、これが719系の特徴の一つにもなっています。 しかし、軽量なステンレス車体と旧型の台車の組み合わせが影響し、急勾配やカーブが多い仙山線では車輪の空転に悩まされることもあったようです。 後継車両であるE721系の登場により、徐々に運用範囲は狭まっていきました。

快速「仙台シティラビット」
東北本線の仙台駅~福島駅・郡山駅間などを結んでいた快速列車です。719系は、専用のヘッドマークを掲げてこの列車に充当されることも多く、多くの利用者に親しまれました。

奥羽本線(山形線)での活躍

前述の通り、奥羽本線の福島駅~新庄駅間(山形線)では、標準軌仕様の5000番台が専用で活躍しています。 山形新幹線「つばさ」が走る同じ線路を、普通列車としてのんびりと走る姿が見られます。この区間は、福島・山形県境の板谷峠という急勾配区間を越えるため、強力なブレーキ性能とパワーが求められます。

0番台がすべて引退した現在でも、5000番台は山形線に欠かせない車両として全編成が活躍を続けています。 しかし、登場から30年以上が経過しており、今後の動向が注目されています。 最近では後継車両に関する報道もあり、この光景が見られるのも残りわずかかもしれません。

磐越西線での活躍と引退

磐越西線の電化区間(郡山~喜多方)では、2007年から「あかべぇ」塗装の719系が活躍を開始しました。 455系などの国鉄形急行電車を置き換え、同線のサービス向上に貢献しました。快速「あいづライナー」の代走を務めることもありました。

また、観光列車「フルーティアふくしま」も主にこの磐越西線で運行され、多くの観光客に福島の魅力を伝えました。 しかし、後継車両であるE721系の導入に伴い、一般の719系は徐々に運用を終了。 「フルーティアふくしま」も車両の老朽化により2023年12月24日をもって運行を終了し、磐越西線から719系の姿は消えました。

719系の現在と引退後の姿

長年にわたり東北地方の足として活躍してきた719系ですが、後継車両の登場によりその多くが引退しました。しかし、そのすべてが姿を消したわけではありません。ここでは、719系の現在の状況と、引退後の意外な活躍について見ていきます。

定期運用からの引退と廃車

719系0番台は、後継車両であるE721系1000番台の導入に伴い、2016年頃から本格的な置き換えが始まりました。 東北本線や仙山線での運用が減少し、最後は常磐線の一部区間などで活躍していましたが、2020年3月のダイヤ改正をもって定期運用を終了しました。

その後、残っていた車両も順次廃車となり、2020年6月までに事業用車両へ改造されたものを除き、0番台はすべて姿を消しました。 また、「フルーティアふくしま」として活躍した700番台も、2023年12月の運行終了後、2024年2月に廃車・解体されています。

番台 主な活躍路線 定期運用終了 現状
0番台 東北本線、仙山線、磐越西線など 2020年3月13日 訓練車を除き全車廃車
5000番台 奥羽本線(山形線) 運用中 全車現役(一部廃車の動きあり)
700番台「フルーティア」 磐越西線、東北本線 2023年12月24日 全車廃車

えちごトキめき鉄道への譲渡

JR東日本での役目を終えた719系ですが、一部の車両が新潟県の第三セクター鉄道「えちごトキめき鉄道」に譲渡されるという話が持ち上がったことがあります。しかし、これは実現には至りませんでした。719系は交流電車ですが、えちごトキめき鉄道の電化区間は直流であり、走行させるためには大規模な改造が必要となるためです。

結果として、えちごトキめき鉄道にはJR東日本の直流電車であるE127系が譲渡されました。もし719系の譲渡が実現していれば、交直流改造など非常に興味深い車両が誕生していたかもしれませんが、残念ながら幻の計画となりました。

今も会える?719系の保存車両

多くの車両が解体されてしまいましたが、今でもその姿を見ることができる719系が存在します。廃車となった0番台のH-40編成は解体を免れ、JR東日本の東北本部総合訓練センター(宮城県利府町)で訓練車として活用されています。

この車両は車籍こそないものの、現役時代とほぼ変わらない姿で保存されており、運転士や車掌の訓練に使用されています。 一般の人が目にすることは難しいですが、東北の鉄道の安全を支えるという新たな役割を担って、今も生き続けているのです。そして、山形線では現在も5000番台が元気に活躍しており、乗車することも可能です。

まとめ:JR東日本719系電車の記憶は今も走り続ける

JR東日本719系電車は、平成の初めに登場し、約30年間にわたって東北地方の地域輸送を支えてきた名車です。国鉄形車両が主流だった時代に、3ドアのステンレスボディという新しいスタイルで登場し、仙台都市圏の輸送改善に大きく貢献しました。

標準軌仕様の5000番台、「あかべぇ」塗装、そして「走るカフェ」として人気を博した「フルーティアふくしま」など、多彩なバリエーションで各地に足跡を残しました。多くの車両は引退しましたが、山形線では今なお現役で活躍する5000番台の姿を見ることができます。その堅実な走りと親しみやすいデザインは、多くの人々の記憶に刻まれ、これからも語り継がれていくことでしょう。

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