東武鉄道の特急列車として、長年にわたり多くの人々に親しまれている東武100系「スペーシア」。
1990年のデビュー以来、東京と日光・鬼怒川温泉という日本を代表する観光地を結ぶフラッグシップ特急として走り続けています。 その洗練されたデザインと快適な車内空間は、多くの鉄道ファンや旅行者から高い評価を受けてきました。
この記事では、東武100系「スペーシア」がどのような車両なのか、その誕生の背景から特徴的な構造、リニューアルによる変化、そして気になる今後の展望まで、わかりやすくご紹介します。これからスペーシアに乗る方も、鉄道が好きな方も、きっと新たな発見があるはずです。
東武100系「スペーシア」とは?長年愛される特急の顔
東武100系「スペーシア」は、東武鉄道の看板特急として、浅草や新宿と日光・鬼怒川エリアを結び、多くの観光客を運び続けてきました。 バブル経済期の1990年にデビューしたこの車両は、豪華さと快適性を追求し、当時の最新技術を惜しみなく投入して開発されました。 その結果、単なる移動手段にとどまらない、乗ること自体が目的となるような魅力的な特急列車が誕生したのです。
デビューはいつ?開発の背景
東武100系「スペーシア」は、1990年6月1日に営業運転を開始しました。 それまで日光へのアクセスを担っていた1720系「デラックスロマンスカー(DRC)」の後継車両として開発されたものです。 DRCは、1960年の登場から高い人気を誇り、「東武の顔」とも言える存在でした。そのため、後継となる100系には、DRCを超える性能とサービスが求められるという、非常に高いハードルが課せられていたのです。
開発コンセプトは「Fast & Pleasure(速く、そして快適に)」。 このコンセプトに基づき、設計最高速度130km/h(営業最高速度120km/h)という高速性能と、豪華な内装設備を両立させることを目指しました。 当時の特急車両としては画期的なVVVFインバータ制御(モーターの回転数を細かく制御して、滑らかな加速や省エネを実現する装置)を本格的に採用し、乗り心地と静粛性を高いレベルで実現しました。
愛称「スペーシア」の由来とコンセプト
「スペーシア(SPACIA)」という愛称は、一般公募によって選ばれました。 これは英語の「SPACE(空間・宇宙)」に、地名などを表す接尾辞「IA」を組み合わせた造語です。 その名の通り、広々とした快適な車内空間を提供することを意図して名付けられました。 この愛称は東武鉄道によって商標登録されており、他の鉄道会社では使用できません。
車内のインテリアデザインは、銀座東武ホテル(当時)のデザインを手掛けたイギリス人デザイナー、ロバート・マーチャント氏が担当。 天井や壁面は落ち着いたベージュ系でまとめられ、間接照明がソフトで落ち着いた雰囲気を演出しています。 このように、内外装ともに「ゆとり」と「快適性」を追求したデザインが、スペーシアの大きな特徴となっています。
グッドデザイン賞受賞のデザイン
東武100系は、その優れたデザインが高く評価され、デビューした1990年に通商産業省(現在の経済産業省)の「グッドデザイン商品(Gマーク)」に選定されました。 さらに翌年の1991年には、鉄道友の会が選ぶ「ブルーリボン賞」を受賞しています。 ブルーリボン賞は、その年に営業運転を開始した鉄道車両の中から、デザインや技術などが最も優秀と認められた車両に贈られる、鉄道車両にとって大変名誉ある賞です。
外観は、ジャスミンホワイトを基調に、パープルルビーレッドとサニーコーラルオレンジの帯を配した、華やかでスピード感のあるデザインが特徴です。 先頭車両は緩やかな流線型で、優美なイメージを強調しています。 また、客室の窓周りを黒く塗装することで、側面全体がすっきりと引き締まった印象を与えています。 この洗練されたデザインは、登場から30年以上が経過した現在でも色褪せることなく、多くの人々を魅了し続けています。
特徴的な車両構造と技術

東武100系「スペーシア」は、その美しいデザインだけでなく、快適な乗り心地と高い走行性能を実現するための様々な技術が採用されています。東武鉄道で初となる試みも多く取り入れられており、当時の最先端技術が詰まった車両と言うことができます。ここでは、その特徴的な車両構造と技術について詳しく見ていきましょう。
静粛性と乗り心地を追求した車体
東武100系の車体には、東武鉄道で初めてオールアルミ合金製が採用されました。 これにより、車体の軽量化と低重心化が図られています。 軽量化は、スピードアップや省エネルギーに貢献する重要な要素です。
また、特筆すべきは客室の静粛性へのこだわりです。走行中の騒音や振動を抑えるため、床の構造に工夫が凝らされています。先代の特急車両である1720系の床の厚さが50mmだったのに対し、100系では130mmと大幅に厚くなっており、高い遮音性を実現しました。 さらに、客用扉には外側に開くプラグドアを採用し、車体側面を滑らかにすることで風切り音を低減しています。 これらの工夫により、乗客は静かで快適な室内でくつろぎの時間を過ごすことができるのです。
快適な乗り心地を実現する台車
鉄道車両の乗り心地を大きく左右するのが「台車」と呼ばれる、車輪がついた装置です。東武100系では、SUミンデン式という形式のボルスタレス台車が採用されました。 ボルスタレス台車は、構造がシンプルで軽量なのが特徴です。
しかし、初期に製造された編成では、乗り心地の面で課題がありました。そこで、後に製造された編成からは「ヨーダンパ」という、車体の横揺れを抑える装置が追加で設置されました。 もちろん、初期に製造された編成にも後からヨーダンパが取り付けられ、乗り心地の改善が図られています。 さらに、急カーブでも滑らかに走行できるよう、加速度を徐々に高めていく制御も行われており、乗客が揺れを感じにくいよう配慮されています。
編成と各車両の役割
東武100系は6両で1つの編成を組んでおり、全ての車両にモーターが搭載されている「全電動車方式」を採用しています。 これにより、日光線の急な勾配区間でも力強く走行することが可能です。 編成は浅草側から1号車、2号車…と続き、東武日光・鬼怒川温泉側の6号車が先頭になります。
各車両の主な役割
- 1号車・6号車(先頭車両):運転台があり、客室があります。6号車は全てが4人用のコンパートメント(個室)となっています。
- 2号車・4号車・5号車(中間車両):一般座席の車両です。
- 3号車(中間車両):登場時はビュッフェが設置されていましたが、現在はカフェカウンター(販売カウンター)として機能しています。また、飲み物の自動販売機も設置されています。
トイレや洗面所は1号車、4号車、6号車に設置されています。 このように、各車両に役割を持たせることで、長時間の乗車でも快適に過ごせるよう工夫されています。
多彩なバリエーションとリニューアルの歴史
東武100系「スペーシア」は、1990年のデビューから30年以上にわたり活躍を続ける中で、時代のニーズや観光キャンペーンに合わせて様々な姿に変わってきました。特に2011年以降は、東京スカイツリーの開業を機に大がかりなリニューアルが実施され、外観も内装も大きく変化しました。ここでは、その多彩なカラーバリエーションとリニューアルの歴史を振り返ります。
登場時のオリジナルカラー
デビュー当時の東武100系は、ジャスミンホワイトを基調に、パープルルビーレッドとサニーコーラルオレンジの帯を配し、窓周りを黒で引き締めたカラーリングでした。 この配色は、1990年代の東武鉄道の優等列車に共通するイメージであり、多くの鉄道ファンにとって「スペーシアといえばこの色」という印象が強いものでした。
このオリジナルカラーは、後述するリニューアルによって一時は姿を消しましたが、デビュー30周年を記念して2021年6月からリバイバル塗装が開始されました。 懐かしいカラーリングが復活したことで、長年のファンからは喜びの声が上がっています。
豪華な内装へのリニューアル「雅」「粋」「サニーコーラルオレンジ」
2011年から2012年にかけて、東武100系は全9編成にリニューアル工事が施されました。 これは、翌年に開業を控えた東京スカイツリー®へのアクセス特急としての役割を強化するためのものでした。
外観カラーは3種類が登場しました。
内装も一新され、座席のモケット(表布)が張り替えられました。一般席は東武グループの新しいロゴカラーである「フューチャーブルー」を基調に、東京スカイツリーのロゴをモチーフにしたカラフルなドット柄のデザインとなりました。 個室のソファもブラウン系に張り替えられ、より落ち着いた雰囲気になっています。 なお、これらのリニューアルカラーは、後の塗装変更により現在は全て消滅しています。
特別塗装「日光詣スペーシア」とその種類
2015年、日光東照宮四百年式年大祭を記念して、特別塗装を施した「日光詣(にっこうもうで)スペーシア」が登場しました。 この車両は、日光二社一寺(日光東照宮、日光山輪王寺、日光二荒山神社)の建造物に使われている荘厳な金色を基調に、黒と朱色のラインを配した非常にインパクトのある外観が特徴です。
最初に1編成(103編成)がこの塗装に変更され、大きな話題となったことから、JR線への直通運転に対応した編成(106編成)にも追加で施されました。 これにより、東武線内だけでなく、JR新宿駅からも金色のスペーシアが日光・鬼怒川へ向かう姿が見られるようになりました。
車内も特別仕様となっており、座席のヘッドカバーが金色に変更されています。 特にJR直通対応編成の個室は、壁や天井まで金色に装飾された「金の個室」となっており、非常にゴージャスな空間が広がっています。 1号車と6号車の車体側面には、日光東照宮の「眠り猫」と「三猿」をデザインしたエンブレムが貼られています。
懐かしのカラーリング復刻版
近年、鉄道ファンの間で注目を集めているのが、過去の塗装を再現したリバイバル(復刻)カラーです。東武100系でも、いくつかの復刻カラーが登場しています。
前述の通り、2021年からはデビュー30周年を記念して、登場時のオリジナルカラーへの復刻が進められています。
さらに、2021年12月には、100系の先代にあたる1720系「デラックスロマンスカー(DRC)」を模したカラーリングの編成も登場しました。 ロイヤルベージュを基調にロイヤルマルーンの帯を配したこの塗装は、往年の日光特急を知る世代にとっては非常に懐かしいものと言えるでしょう。
また、2023年12月からは、栃木県誕生150年を記念して「いちごスペーシア」が登場しました。 車体がいちごをイメージしたカラーリングになっているほか、一部の座席や個室がいちごのデザインで装飾されています。
このように、東武100系は様々なカラーリングで運行されており、どの塗装の列車に乗れるかというのも、旅の楽しみの一つになっています。
スペーシアの座席と豪華な個室
東武100系「スペーシア」の大きな魅力の一つが、ゆったりとした座席と豪華な設備です。一般席でもJRのグリーン車に匹敵すると言われるほどの快適性を誇り、さらに私鉄では珍しいコンパートメント(個室)も備えています。長時間の移動も快適に過ごせるよう、様々な工夫が凝らされています。
一般席の座り心地と設備
1号車から5号車に設置されている一般席は、横2席+2席の4列配置です。 座席の前後間隔を示すシートピッチは1,100mmと非常に広く、足をゆったりと伸ばすことができます。 これは、JRの特急列車のグリーン車と同等かそれ以上の広さであり、「スペーシア」の快適性を象徴する特徴の一つです。
座席はフリーストップ式のリクライニングシートで、好みの角度に倒すことができます。 全ての座席にはフットレスト(足置き)が装備されており、長時間の乗車でも疲れにくいよう配慮されています。 テーブルは、肘掛けに収納されている小型のものと、窓側の壁に設置されている大型の折りたたみ式の2種類があり、用途に応じて使い分けることが可能です。
登場時には、座席のヘッドレスト部分にスピーカーが内蔵されており、イヤホンなしで音楽を楽しめるオーディオサービスがありましたが、機器の不調により後に撤去されました。 現在はその大きなヘッドレストが、隣席との仕切りのような役割を果たし、プライベート感を高めています。
グリーン車に相当するコンパートメント(個室)
6号車には、4人用のコンパートメント(個室)が6室設けられています。 これは、日本の私鉄の特急車両としては初めて本格的に導入されたもので、スペーシアの豪華さを象徴する設備です。 JR線に乗り入れる際はグリーン個室として扱われます。
室内は、向かい合わせのソファと、中央に配置された天然大理石のテーブルが特徴です。 床は絨毯敷きで、まるでホテルのロビーのような落ち着いた空間が広がっています。 座席はソファタイプで柔らかく、ゆったりとくつろぐことができます。
各個室では、空調の温度や照明の明るさを自由に調節することが可能です。 デビュー当時は、室内のインターホンでビュッフェに注文を届けてもらうこともできました。 周囲を気にすることなくプライベートな時間を過ごせるため、家族旅行やグループでの利用に最適です。
ビュッフェからカフェカウンターへの変遷
3号車には、登場時からビュッフェ(軽食堂)が設置されていました。 温かい軽食や飲み物を提供し、移動中の楽しみの一つとなっていました。 しかし、車内サービスの見直しなどにより、ビュッフェとしての営業は終了し、現在はカウンターでの販売形式となっています。
このカウンターでは、お弁当や飲み物、お土産などを購入することができます。ビュッフェの隣には、飲み物の自動販売機も設置されています。 かつてはサービスコーナーや電話室も設けられていましたが、現在は使用されていません。 時代の変化とともにサービス内容は変わりましたが、列車内で飲食物を購入できる便利なスペースとして機能しています。
現在の運用と今後の展望
デビューから30年以上が経過した東武100系「スペーシア」ですが、現在も東武鉄道の主要な特急列車として活躍を続けています。しかし、後継車両の登場により、その役割にも少しずつ変化が見られます。ここでは、現在の主な運行区間や、新型特急「スペーシア X」との関係、そして今後の展望について解説します。
主な運行区間と特急の種類
東武100系「スペーシア」は、主に以下の列車として運行されています。
| 列車名 | 主な運行区間 | 備考 |
|---|---|---|
| けごん | 浅草駅 ⇔ 東武日光駅 | 日光観光のメインとなる列車です。 |
| きぬ | 浅草駅 ⇔ 鬼怒川温泉駅 | 鬼怒川温泉へのアクセスを担います。一部列車は新藤原駅まで運行されます。 |
| スペーシアきぬがわ | 新宿駅 ⇔ 鬼怒川温泉駅 | JR線に乗り入れ、新宿駅から直通運転します。 |
| スペーシア日光 | 新宿駅 ⇔ 東武日光駅 | 臨時列車として運行されることが多いです。 |
後継車両N100系「スペーシアX」の登場
2023年7月15日、東武100系の後継車両として、新型特急N100系「スペーシア X」がデビューしました。 「スペーシア X」は、100系の伝統を受け継ぎつつ、さらに上質で多様な座席バリエーションを備えた、現代のニーズに応えるフラッグシップ特急です。
N100系には、従来の個室をさらに進化させた「コックピットスイート」や、カフェラウンジ、様々なタイプのボックスシートなど、これまでの特急車両にはなかった新しい座席が多数用意されています。 外観デザインは、100系の流線形フォルムを進化させ、日光東照宮の「胡粉(ごふん)」をイメージした白い塗装が特徴です。
「スペーシア X」の登場により、100系「スペーシア」の運用は徐々に置き換えが進んでいます。 これまで東武の看板を背負ってきた100系も、少しずつその役目を新しい世代に引き継いでいくことになります。
これからの東武100系の活躍は?
新型車両「スペーシア X」の導入に伴い、東武100系は一部の編成で廃車が始まっています。 最初に製造された編成から30年以上が経過しており、車両の老朽化も進んでいるため、今後、段階的に数を減らしていくと見られます。
しかし、すぐに全ての車両が引退するわけではありません。「スペーシア X」は4編成が導入される計画であり、これだけでは全ての特急「けごん」「きぬ」などを置き換えることはできません。 そのため、当面は100系「スペーシア」も引き続き日光・鬼怒川へのアクセスを担い、「スペーシア X」を補完する形で活躍を続けることになります。
様々なリバイバルカラーや特別塗装が登場していることからも、引退が近づく中で、ファンサービスや観光の盛り上げ役としての期待もかかっています。今後は、その貴重な姿を見ようと、多くの鉄道ファンや観光客が訪れることになるでしょう。乗り心地の良さや豪華な設備は今なお一線級であり、最後の活躍から目が離せません。
まとめ:今なお輝きを放つ東武100系「スペーシア」

この記事では、東武鉄道の特急列車100系「スペーシア」について、その誕生から特徴、歴史、そして未来までを詳しくご紹介しました。
東武100系「スペーシア」のポイント
- 1990年にデビューした、日光・鬼怒川方面へのフラッグシップ特急。
- 「スペーシア」という愛称は、広々とした快適な空間をイメージして名付けられた。
- グッドデザイン賞やブルーリボン賞を受賞した、洗練されたデザインが魅力。
- オールアルミ合金製の静かな車体と、JRグリーン車並みの広々とした座席が特徴。
- リニューアルや特別塗装により、多彩なカラーバリエーションが存在する。
- 後継車両「スペーシア X」の登場により、徐々に活躍の場を譲りつつある。
デビューから30年以上が経過し、後継車両も登場しましたが、東武100系「スペーシア」が持つ独自の魅力と快適性は、今も決して色褪せていません。むしろ、その歴史に裏打ちされた風格は、新しい車両にはない味わいを感じさせます。これから日光・鬼怒川へお出かけの際は、この平成の名車「スペーシア」での旅を選んでみてはいかがでしょうか。きっと忘れられない快適な鉄道旅行を体験できるはずです。



コメント