新幹線E3系電車は、新幹線が在来線の線路も走れるようにした「ミニ新幹線」という特別な方式のために開発された車両です。
1997年の秋田新幹線「こまち」としてのデビュー以来、山形新幹線「つばさ」としても長きにわたり活躍し、私たちの旅を支えてくれました。シャープなデザインと、在来線区間も走れる小柄な車体が特徴で、東北の美しい風景の中を駆け抜ける姿は多くの人々に愛されています。
この記事では、そんな新幹線E3系電車がどのようにして生まれ、どのような活躍をしてきたのか、そして現在の姿や未来について、初心者の方にも分かりやすく、そして鉄道ファンの方にも楽しんでいただけるように詳しく解説していきます。E3系の持つ多彩な魅力に、ぜひ触れてみてください。
新幹線E3系電車とは?ミニ新幹線のパイオニア
新幹線E3系電車は、JR東日本が誇る「新在直通運転」、通称「ミニ新幹線」のために生まれた特別な車両です。新幹線と在来線の両方を走れるという画期的なコンセプトを実現し、日本の鉄道網に新たな可能性をもたらしました。
ミニ新幹線用車両としての誕生
E3系は、1997年に開業した秋田新幹線「こまち」用の車両として開発されました。 ミニ新幹線とは、新幹線の線路(標準軌:1,435mm)と、在来線の線路(狭軌:1,067mm)の幅が違う問題を解決するため、在来線の線路幅を新幹線と同じ標準軌に拡げて、新幹線車両が直接乗り入れられるようにした方式です。これにより、東京から乗り換えなしで秋田や山形へ行けるようになり、所要時間が大幅に短縮されました。E3系は、先に登場していた山形新幹線の400系をベースにしながらも、さらなる高速化を目指して設計されました。
在来線区間も走れる車体と高速性能
E3系の最大の特徴は、その車体サイズにあります。在来線のトンネルや駅のホームは、フル規格の新幹線車両よりも小さく造られているため、E3系は車体の幅や高さが在来線の規格に合わせて一回り小さく設計されています。 そのため、フル規格の新幹線のホームに停車する際は、車両とホームの間に隙間ができてしまいます。この隙間を埋めるため、乗降口にはステップが格納されており、ドアが開くときに自動で出てくる仕組みになっています。
一方で、東北新幹線の区間ではその性能を最大限に発揮します。デビュー当時の営業最高速度は275km/hで、これは当時としては非常に高速でした。 このように、在来線区間と新幹線区間という異なる環境で、安全かつ快適な走行を実現するための様々な工夫が凝らされているのです。
併結運転で効率的な輸送を実現
E3系は、東京駅から盛岡駅(秋田新幹線)や福島駅(山形新幹線)までの東北新幹線区間では、他の新幹線車両と連結して走る「併結運転」を行います。主にE2系やE5系といったフル規格の新幹線と連結し、E3系は後ろに連結される形で走行します。 そして、盛岡駅や福島駅で切り離しを行い、それぞれの目的地へと向かいます。この併結運転により、東京と東北各地を結ぶ列車の本数を効率的に確保することが可能となりました。
先頭車両には、連結・切り離しをスムーズに行うための自動解結装置が格納されており、運転士の操作一つで連結器カバーが開き、連結器が現れる仕組みになっています。このダイナミックな連結・切り離しシーンは、駅での見どころの一つとして鉄道ファンに人気です。
「こまち」と「つばさ」としての輝かしい歴史

新幹線E3系は、主に秋田新幹線「こまち」と山形新幹線「つばさ」という二つの列車で活躍し、東北地方へのアクセスを飛躍的に向上させました。それぞれの路線で異なるカラーリングをまとい、多くの人々の思い出を乗せて走り続けました。
秋田新幹線「こまち」でのデビュー(0番台)
E3系が最初にデビューしたのは、1997年3月22日に開業した秋田新幹線「こまち」でした。 当初は5両編成で登場しましたが、その人気から翌1998年には6両編成に増強されました。 車体はセラミックホワイトを基調に、メタリックグレーを裾に配置し、その境界にビビッドピンクの帯をまとった鮮やかなカラーリングが特徴でした。 このデザインは、秋田の伝統的な祭りや自然の美しさをイメージさせ、新しい新幹線の登場を強く印象づけました。
「こまち」としてのE3系は、東京と秋田を乗り換えなしで結び、ビジネスや観光の利便性を大きく向上させました。しかし、2013年からは後継車両であるE6系の導入が始まり、E3系は順次置き換えられていきました。そして2014年3月14日をもって、「こまち」としての定期運用を終了しました。
「こまち」運用終了後も、一部の車両は塗装を維持したまま東北新幹線内の「やまびこ」や「なすの」の増結用として活躍を続けましたが、これらの車両も2020年10月をもって定期運用から引退しました。
山形新幹線「つばさ」への投入(1000番台・2000番台)
秋田新幹線での成功を受け、E3系は山形新幹線にも投入されることになりました。1999年12月の山形新幹線新庄延伸に合わせて登場したのがE3系1000番台です。 これは、従来の400系「つばさ」の増備車という位置づけで、7両編成で製造されました。
その後、初代「つばさ」である400系の置き換え用として、2008年12月からE3系2000番台が登場しました。 2000番台は1000番台をベースにしながらも、内外装に大幅な改良が加えられています。外観ではヘッドライトの形状がよりシャープなつり目状になり、印象が大きく変わりました。 車内もリニューアルされ、普通車の全席にコンセントが設置されるなど、快適性が向上しています。 カラーリングは、山形県の鳥である「おしどり」をモチーフにした紫色を基調としたデザインに一新され、現在の「つばさ」のイメージを確立しました。
E2系、E5系との併結運転
前述の通り、E3系は東北新幹線区間では他の新幹線と併結して運転されます。デビュー当初の「こまち」は、主にE2系と併結されていました。 ピンクの帯をまとったE3系と、赤い帯のE2系が連結して走る姿は、当時の東北新幹線の象徴的な風景でした。
その後、東北新幹線にE5系「はやぶさ」が登場すると、併結相手もE5系へと変わっていきました。「こまち」としての運用末期や、「つばさ」の現在に至るまで、E5系の鮮やかな「ときわグリーン」とE3系のカラーリングが連結された姿を見ることができます。 時代の流れとともに連結相手を変えながら走り続けるE3系の姿は、新幹線の進化の歴史そのものを物語っていると言えるでしょう。
個性豊かなE3系の仲間たち(番台解説)
E3系と一言でいっても、製造時期や用途によっていくつかの種類(番台)に分けられます。それぞれに特徴があり、外観や性能、車内設備などが異なります。ここでは、E3系の個性豊かな仲間たちを詳しくご紹介します。
鉄道車両において、同じ形式でも製造時期や仕様の違いによって区別するために付けられる番号のことです。例えば「0番台」「1000番台」のように呼ばれ、数字が大きいほど後に製造されたり、特別な仕様であったりすることが多いです。
量産先行車(R1編成)
E3系の歴史は、1995年に製造された量産先行試作車から始まりました。 この車両は「R1編成」と名付けられ、秋田新幹線開業に向けて様々な走行試験を行いました。量産車との大きな違いは、先頭車両のヘッドライトの形状です。量産車が運転席窓の下にあるのに対し、R1編成は運転席窓の上部に設置されており、少しおだやかな顔つきに見えるのが特徴でした。 当初は5両編成でしたが、後に量産車と同じく6両編成に改造されました。 長年にわたる試験走行で得られた貴重なデータは、その後のE3系はもちろん、日本の新幹線技術の発展に大きく貢献しました。このR1編成は、E6系の導入に伴い2013年に営業運転を終了し、廃車となりました。
0番台(秋田新幹線「こまち」用)
量産先行車の結果をもとに、1997年の秋田新幹線開業に合わせて登場したのが0番台です。 R2編成以降がこれにあたり、一般的に「E3系」というとこの車両を思い浮かべる方も多いでしょう。前述の通り、白地にピンクの帯をまとったデザインが特徴で、主に「こまち」として活躍しました。 当初は5両編成でしたが、1998年に中間車を1両増結して6両編成となりました。
最高速度275km/hでの走行性能と、在来線区間への直通運転能力を両立させ、ミニ新幹線の礎を築きました。2014年に「こまち」としての定期運用を終えた後、一部の編成は後述する観光列車に改造されたり、山形新幹線へ転用されたりして活躍を続けました。
1000番台(山形新幹線「つばさ」用)
1999年の山形新幹線新庄延伸開業に合わせて増備されたのが1000番台です。 編成はL50番台とされ、山形新幹線で運用されていた400系に合わせて7両編成で製造されました。外観はシルバーメタリックを基調とし、緑の帯をまとったカラーリングで、0番台とは大きく印象が異なります。基本的な性能は0番台を踏襲していますが、山形新幹線の走行環境に合わせた細かな仕様変更がなされています。
登場当初は、併結相手である200系や400系の最高速度に合わせて東北新幹線区間での速度が240km/hに抑えられていましたが、後に275km/hでの走行が可能になるよう改造されました。 現在は後継のE8系の導入により、徐々にその数を減らしています。
2000番台(山形新幹線「つばさ」用・改良型)
2008年から、400系の置き換え用として登場したのが2000番台です。 編成はL60番台とされ、1000番台をベースとしながらも、様々な面で改良が施されています。外観上の最も大きな特徴は、ヘッドライトの形状がシャープなデザインに変更された点です。
車内設備も大幅にグレードアップされており、普通車の全座席窓側とグリーン車の全座席に電源コンセントが設置されたほか、フルカラーLEDの案内表示器や防犯カメラも装備されるなど、快適性と安全性が向上しています。 制御装置には、より省エネ性能の高いIGBT素子を採用しています。 車体カラーは、現在の「つばさ」の象徴である紫を基調としたデザインで、山形の県鳥「おしどり」や県花「べにばな」が描かれています。
観光列車(ジョイフルトレイン)への華麗なる転身
E3系は「こまち」や「つばさ」としての活躍だけでなく、その特徴的な車両構造を活かして、乗ること自体が目的となる「のってたのしい列車(ジョイフルトレイン)」へと改造され、多くの乗客に特別な旅を提供しました。ここでは、E3系から生まれた二つのユニークな観光列車を紹介します。
足湯新幹線「とれいゆ つばさ」(700番台 R18編成)
新幹線史上初となる、足湯を設置したリゾート列車として2014年7月にデビューしたのが「とれいゆ つばさ」です。 秋田新幹線で活躍していたE3系0番台のR18編成を改造して生まれました。 愛称の「とれいゆ」は、「トレイン(列車)」とフランス語で太陽を意味する「ソレイユ」を組み合わせた造語です。
車両は6両編成で、11号車が通常のリクライニングシート、12〜14号車が畳のお座敷指定席、15号車が湯上りラウンジ、そして16号車に2つの足湯を備えるというユニークな構成でした。 まさに「走る温泉街」のように、車窓の景色を楽しみながら足湯でくつろぎ、地酒やスイーツを味わうという、これまでにない新しい新幹線の旅を提案しました。主に週末を中心に福島駅と新庄駅の間を走り、多くの観光客に愛されましたが、車両の老朽化などにより、2022年3月をもって惜しまれながら運行を終了しました。
| 号車 | 設備 | 概要 |
|---|---|---|
| 11号車 | 普通指定席 | ゆったりとしたリクライニングシート席。 |
| 12〜14号車 | お座敷指定席 | 畳の上でくつろげる、大きなテーブルを備えたボックス席。 |
| 15号車 | 湯上りラウンジ | バーカウンターがあり、山形の地酒やジュース、お菓子などを販売。畳の小上がりスペースも。 |
| 16号車 | 足湯 | 車窓を眺めながら楽しめる2つの足湯槽(紅花色の湯船と黒塀の湯船)を設置。 |
世界最速の美術館「現美新幹線」(700番台 R19編成)
「とれいゆ つばさ」に続き、もう一つのユニークな観光列車として登場したのが「現美新幹線(GENBI SHINKANSEN)」です。こちらは「世界最速の芸術鑑賞」をコンセプトに、秋田新幹線で活躍したE3系R19編成を改造し、2016年4月に上越新幹線でデビューしました。
外観は写真家の蜷川実花氏が撮影した長岡の花火をデザインした、黒ベースの鮮やかなものでした。車内は各車両が異なるアーティストのインスタレーション(空間芸術)で構成されており、まさに「走る美術館」でした。13号車にはキッズスペース、14号車にはカフェも併設され、子どもから大人まで楽しめる空間となっていました。こちらも週末を中心に越後湯沢駅と新潟駅の間を走り、アートと鉄道の新しい融合として大きな話題を呼びましたが、2020年12月に運行を終了しました。
新幹線E3系の現在の運用状況と今後の展望

長年にわたり活躍してきたE3系ですが、後継車両の登場により、その姿を見られる機会は少なくなってきています。ここでは、現在のE3系の運用状況と、今後の引退に向けた動きについて解説します。
現在の「つばさ」での運用とE8系の登場
2025年現在、新幹線E3系が定期運用されているのは、山形新幹線「つばさ」のみです。 主に1000番台と2000番台が活躍していますが、2024年3月のダイヤ改正から、新型車両であるE8系の営業運転が開始されました。
E8系は、E3系と同じくミニ新幹線用の車両ですが、最高速度が300km/hに向上しており(東北新幹線区間)、東京〜山形・新庄間の所要時間短縮に貢献しています。 E8系の導入は順次進められており、それに伴いE3系は少しずつ置き換えられています。
E3系の引退はいつ?置き換えスケジュール
後継となるE8系の導入が順調に進んでいることから、山形新幹線「つばさ」で活躍するE3系は、2025年内に定期運行を終了する見込みです。 当初は2026年春までの予定でしたが、計画が前倒しされています。 これにより、1997年のデビューから四半世紀以上にわたるE3系の歴史に、まもなく幕が下ろされることになります。
JR東日本では、E3系の引退に向けて「つばさ、つなぐ。」プロジェクトと題したキャンペーンを展開しており、記念グッズの販売やイベント列車の運行などで最後の活躍を盛り上げています。
E3系に乗るには?現在の乗車方法
現在E3系に乗車するためには、山形新幹線「つばさ」を狙う必要があります。ただし、新型車両E8系への置き換えが進んでいるため、どの列車がE3系で運転されるかは日によって異なります。確実にE3系に乗りたい場合は、事前にJR東日本のウェブサイトなどで運転計画を確認することをおすすめします。
特に、シルバーの車体が特徴の1000番台は非常に数が少なくなっているため、出会えたら幸運と言えるでしょう。引退が迫る中、E3系の乗り心地や車窓からの風景を体験できる機会は残りわずかとなっています。
ミニ新幹線の歴史を刻んだ新幹線E3系の魅力まとめ

新幹線E3系電車は、新幹線と在来線を直通するという「ミニ新幹線」のコンセプトを確立し、発展させてきた功労者です。
秋田新幹線「こまち」としての鮮烈なデビューから、山形新幹線「つばさ」としての長年の活躍、そして「とれいゆ つばさ」や「現美新幹線」といった個性的な観光列車への変身まで、その歩みは常に挑戦と革新の連続でした。
在来線サイズという制約の中で高速性能を追求し、他の新幹線との併結運転で効率的な輸送を実現するなど、その技術的な特徴も特筆すべき点です。まもなく定期運行を終えるE3系ですが、その功績と多くの人々の思い出を乗せて走った勇姿は、日本の鉄道史に永く刻まれることでしょう。



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