東京のウォーターフロント、臨海副都心を走る「りんかい線」。
この路線で開業当初から活躍しているのが、東京臨海高速鉄道70-000形(ななまんがた)電車です。 シルバーの車体にエメラルドグリーンのラインが特徴的で、多くの人々に親しまれてきました。
りんかい線内だけでなく、JR埼京線や川越線にも乗り入れており、新木場から川越までという広範囲でその姿を見ることができます。 見た目はJR東日本の209系電車によく似ていますが、実は細かい部分に独自のデザインやこだわりが詰まった車両です。 この記事では、そんな70-000形電車の基本情報から、特徴的なデザイン、快適な車内空間、そしてこれからの未来について、わかりやすくご紹介します。
東京臨海高速鉄道70-000形電車の基本情報
まずは、70-000形電車がどのような車両なのか、基本的な情報から見ていきましょう。りんかい線の主力として、日々の安全な運行を支えるこの車両の役割や活躍の舞台、そして少し変わった形式名の由来について解説します。
りんかい線の主力車両としての役割
東京臨海高速鉄道70-000形電車は、1996年3月30日のりんかい線(当時は臨海副都心線)第一期区間(新木場~東京テレポート)の開業に合わせて登場した通勤形電車です。 開業以来、りんかい線の主力車両として活躍を続けており、東京の臨海副都心エリアへのアクセスを支える重要な役割を担っています。
車両はJR東日本の209系をベースに設計・製造されました。 これは、開業当初りんかい線が自前の車両基地を持たず、車両の検査やメンテナンスをJR東日本に委託していたという経緯があるためです。 そのため、走行に必要な主要な機器や車体の基本構造は209系と共通化されており、安定した性能とメンテナンスの効率化が図られています。
現在、10両編成8本の合計80両が在籍しており、りんかい線を走るE233系と共に、日々の通勤・通学やお台場などへの観光客の足として活躍しています。
70-000形が走る路線と直通運転
70-000形電車が活躍する舞台は、東京臨海高速鉄道りんかい線だけではありません。りんかい線は、起点の新木場駅(江東区)から終点の大崎駅(品川区)までの12.2kmを結ぶ路線ですが、大崎駅でJR埼京線と相互直通運転を行っています。
これにより、70-000形は埼京線を経由して大宮駅まで、さらに大宮駅からは川越線に乗り入れて川越駅(埼玉県)まで顔を出します。 この広範囲な直通運転のおかげで、乗客は乗り換えなしで埼玉県から東京の臨海副都心エリアへ、あるいはその逆方向へとスムーズに移動することが可能です。
りんかい線内は全区間が地下トンネルですが、埼京線に入ると地上区間が多くなり、車窓の風景も大きく変わります。都会のビル群から住宅街、そして郊外の景色へと移り変わる中を走る70-000形の姿は、多くの鉄道ファンにとってもおなじみの光景となっています。
形式名の「70-000」の由来とは?
鉄道車両の形式名は数字やカタカナの組み合わせが多い中、「70-000形」というハイフンが入った少し珍しい名前を持っています。この読み方は「ななまんがた」です。
このユニークな名前の由来は、りんかい線が走る「東京臨海副都心」が、東京都によって7番目に策定された副都心であることにちなんでいます。 新宿、渋谷、池袋、上野・浅草、錦糸町・亀戸、大崎に次ぐ7番目の副都心計画が、この車両の名前にも込められているのです。
車両番号の付け方も特徴的で、例えば「70-011」という番号の場合、「70」が系列(70-000形)を、「01」が編成番号(第1編成)を、そして末尾の「1」が編成内での車両の位置(1号車)を示しています。 このような付番方式は、東京都交通局(都営地下鉄)の車両などでも見られるものです。
70-000形電車の特徴的な外観デザイン

一見するとJRの209系にそっくりな70-000形ですが、よく見ると随所にオリジナリティあふれるデザインが施されています。ここでは、その特徴的な外観デザインに焦点を当て、兄弟車である209系との違いや、製造時期による細かなバリエーションについて掘り下げていきます。
近未来的なフロントマスクとカラーリング
70-000形の外観で最も特徴的なのが、丸みを帯びた近未来的なデザインの前面(フロントマスク)です。 ベースとなった209系が直線的で角ばったデザインなのに対し、70-000形は全体的にカーブを多用した、優しく柔らかな印象を与えるデザインとなっています。 これは、臨海副都心という新しい街のイメージに合わせて設計されたもので、他のどの車両にも似ていない独自の顔つきを生み出しています。
車体は軽量ステンレス製で、光沢を抑えた落ち着いた銀色がベースです。 そこに巻かれているラインカラーは、臨海エリアを象徴する海の色をイメージしたエメラルドグリーン。この鮮やかなカラーリングが、シルバーの車体にアクセントを加え、爽やかで都会的な雰囲気を演出しています。先頭車両の側面には、りんかい線のロゴマーク「TWR」が配されており、一目でりんかい線の車両であることがわかるようになっています。
JRの209系がベース?兄弟車両との違い
前述の通り、70-000形はJR東日本の209系をベースに開発されました。 そのため、ドアの音やモーター音(走行音)などは209系と非常によく似ています。 しかし、デザイン面では多くの違いが見られます。
最もわかりやすい違いは前面デザインですが、側面にも細かな差異があります。例えば、209系のドアガラスはゴムで固定する「接着式」が採用されていますが、初期に製造された70-000形では金属の枠でガラスを固定する「押さえ金方式」が採用されました。 これは209系の試作車で採用されたものと似た方式で、興味深い点です。 (ただし、2002年以降に製造された増備車では209系と同じ接着式に変更されています)。
また、車体のステンレスの仕上げ方にも違いがあり、70-000形の方がより丁寧で滑らかな仕上がりになっていると言われています。
兄弟から本物の209系になった車両も
りんかい線が全線開業し、編成を増強する過程で、一部の車両が余剰となりました。そのうち6両(先頭車4両、中間車2両)はJR東日本へ譲渡され、改造を受けて「209系3100番台」として八高・川越線で活躍しました。 ベース車両から、本物の209系へと生まれ変わったという、非常に珍しい経歴を持つ車両です。
製造時期による細かな違い(前期形と後期形)
70-000形は、1995年から2004年にかけて複数回にわたって製造されました。 そのため、製造時期によって細かな仕様の違いが見られます。
大きな違いの一つが、側面のロゴマークです。開業当初に製造された車両は、東京臨海高速鉄道の略称である「TWR」というシンプルなロゴでした。しかし、2002年の全線開業に合わせて増備された車両からは、「TWR りんかい線」というように路線名が併記されるようになりました。 これにより、一目でどの時期に製造された車両かを見分けることができます。
また、車内にも違いがあります。2002年以降に製造された車両では、客用ドアのガラスが接着式に変更されたほか、ドア上部の案内表示器の配置が全ドア上から千鳥配置(交互配置)に変わったり、吊り革の形状が丸みを帯びたものに変更されたりしています。 このように、長年にわたって製造された車両だからこそ見られる細かなバリエーションを探してみるのも、70-000形の楽しみ方の一つと言えるでしょう。
行先表示器の変遷(LEDからフルカラーへ)
列車の行先や種別を表示する「行先表示器」も、時代とともに進化してきました。70-000形が登場した当初、行先表示は文字を印刷したフィルムを回転させる「幕式」でした。 その後、2001年に増備された車両からは、3色LED(発光ダイオード)式に変更され、視認性が向上しました。 既存の幕式だった車両も、後にLED式へと交換されています。
LED化により、「快速 川越」のように種別と行先を交互に表示させることが可能になり、乗客への案内がより分かりやすくなりました。そして近年では、機器の更新に伴い、一部の編成でより多彩な表示が可能なフルカラーLEDへの交換が進められています。フルカラーLEDでは、種別ごとに色を変えたり、駅ナンバリングを表示したりと、さらにきめ細やかな情報提供が可能になります。普段何気なく見ている行先表示器ですが、ここにも車両の歴史と技術の進化が表れています。
快適性を追求した車内空間と設備
毎日多くの人が利用する通勤電車だからこそ、車内の快適性は非常に重要です。70-000形は、ベースとなった209系の合理的な設計思想を受け継ぎつつも、内装デザインなどに独自の工夫を凝らし、乗客が快適に過ごせる空間づくりを目指しています。
エメラルドグリーンが印象的な座席と内装デザイン
70-000形の車内に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが鮮やかなエメラルドグリーンの座席です。 この色は外観のラインカラーと統一されており、爽やかで明るい印象を与えます。座席は一人ひとりの着席スペースが区切られたバケットシートタイプで、快適な座り心地を提供しています。
内装全体のデザインは、クリーム色の化粧板を基調としながら、車両の連結部分にある妻面や座席の袖仕切りにベージュ系の木目調パネルを採用しているのが大きな特徴です。 この木目調のデザインが、無機質になりがちな通勤電車の車内に温かみと落ち着きをもたらし、上質な空間を演出しています。 これは、ベースとなった209系にはない70-000形ならではの仕様であり、設計におけるこだわりが感じられる部分です。
車内案内表示器と自動放送の進化
乗客への情報提供を担う車内設備も、時代に合わせて進化を遂げています。登場当初、各ドアの上部には、次の停車駅などを文字で表示する3色LED式の車内案内表示器が設置されていました。これも209系と同様の設備です。
しかし、後年行われた改造により、このLED表示器が液晶ディスプレイ(LCD)に交換されました。 これは、既存のLED表示器の枠をそのまま利用して液晶画面をはめ込むという珍しい方法で行われました。 LCD化によって、停車駅案内に加えて、乗り換え案内や運行情報、駅の設備案内など、より多くの情報をグラフィカルに表示できるようになり、乗客の利便性が大幅に向上しました。 この改造は、兄弟車であるJR東日本の209系では行われなかった、70-000形独自のアップグレードです。
また、自動放送も導入されており、日本語と英語の2か国語で丁寧な案内が行われます。
バリアフリーへの対応とフリースペース
すべての乗客が安心して利用できるよう、バリアフリーにも配慮されています。各編成の先頭車両には、車椅子やベビーカーを利用する方のためのフリースペースが設けられています。 このスペースは、壁にヒーターが設置されているほか、緊急時に乗務員と通話できる非常通報装置も備えられています。
また、ドアの開閉時にはチャイムが鳴り、視覚に障がいのある方にもドアの動きを知らせます。つり革の一部は、背の低い方や座っている方でも掴みやすいように、低い位置に設置されています。床面も滑りにくい素材が採用されており、雨の日でも安心して乗車できます。
さらに、2009年頃からは痴漢対策として、JR埼京線の車両と同様に1号車に防犯カメラが設置されるなど、誰もが快適に、そして安全に利用できる車内環境づくりが進められています。
安定した走行を支える主要機器と性能
乗客の目には直接触れることの少ない部分ですが、電車の心臓部ともいえる主要な走行機器にも、安定した走りや省エネルギーを実現するための技術が詰まっています。ここでは、70-000形の走りや乗り心地を支える主要機器について、少し専門的な内容も交えながら分かりやすく解説します。
主要諸元(10両編成)
最高速度: 100km/h
起動加速度: 2.5 km/h/s
編成定員: 1540人
車体材質: ステンレス鋼
制御方式: VVVFインバータ制御
(出典:Wikipedia)
スムーズな加減速を実現するVVVFインバータ制御
70-000形は、モーターの回転数をきめ細かく制御することで、スムーズな加速や減速、そして電力消費の抑制を可能にするVVVF(可変電圧可変周波数)インバータ制御方式を採用しています。 登場当時は、GTO(ゲート・ターンオフ・サイリスタ)という素子を使用した制御装置が搭載されており、発車・停車時に「ヒュイーン」という独特の磁励音(モーター音)が特徴的でした。
その後、2012年頃から機器の更新工事が順次行われ、制御装置が新しいものに交換されました。 新しい装置には、GTOよりもさらに電力損失が少なく、静粛性に優れたIGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)という素子が使われています。 この更新により、走行時のモーター音は大きく変化し、より静かで滑らかな走りとなりました。また、省エネルギー性能もさらに向上しています。
乗り心地と安全性を高める台車
台車は、車体を支え、レールの上の車輪を保持し、モーターの力をレールに伝えて走行するための重要な装置です。電車の乗り心地や走行安定性は、この台車の性能に大きく左右されます。
70-000形が採用しているのは、軸梁式ボルスタレス台車と呼ばれる形式の台車です(形式名:KW151形・KW152形)。 この台車は、構造がシンプルで軽量なのが特徴で、JR東日本の209系やE231系など、数多くの通勤・近郊形電車で採用実績があります。空気ばね(空気の圧力を利用したばね)を使用することで、走行中の細かな振動を吸収し、快適な乗り心地を実現しています。また、メンテナンスがしやすいというメリットもあります。
ブレーキシステムには、電気の力でモーターを発電機として利用し、減速する力を得る回生ブレーキと、空気の力で車輪を挟んで止める電気指令式空気ブレーキを併用しています。回生ブレーキは、減速時に発生した電気を架線に戻して他の電車が再利用できるため、省エネルギーに大きく貢献します。
保安装置とJR線への乗り入れ対応
安全な運行を確保するため、70-000形には複数の保安装置が搭載されています。りんかい線内では、ATC(自動列車制御装置)というシステムが使われています。これは、先行列車との距離に応じて、自動的にブレーキをかけて速度を制御する装置で、高密度な運転が行われる地下鉄などで広く採用されています。
一方、直通運転を行うJR埼京線・川越線では、ATS-Pという保安装置が使用されています。 これは、運転士が停止信号を見落とした場合などに、自動的にブレーキをかけて列車を停止させる装置です。さらに、埼京線の一部区間(池袋~大宮)では、より高度な制御が可能なATACS(アタックス)と呼ばれる無線を利用した新しい列車制御システムが導入されており、70-000形もこのATACSに対応するための改造を受けています。
このように、複数の異なる保安装置を搭載し、それぞれの路線に合わせてシステムを切り替えながら走行することで、広範囲にわたる安全な直通運転を実現しているのです。
70-000形電車のこれまでの歩みと今後の展望

1996年のデビュー以来、約30年にわたり活躍を続けてきた70-000形。その歴史は、りんかい線の延伸開業の歴史とともにあります。ここでは、これまでの車両増備の経緯や、時代に合わせて行われてきた改造、そして気になる今後の動向について見ていきます。
りんかい線全線開業までの歴史と車両増備
70-000形の歴史は、りんかい線の延伸の歴史と密接に関わっています。
- 1996年: りんかい線第一期区間(新木場~東京テレポート)開業。4両編成4本で運行を開始。
- 2001年: 東京テレポート~天王洲アイル間が延伸開業。4両編成1本を増備。
- 2002年: 天王洲アイル~大崎間が延伸開業し、ついに全線開通。同時に埼京線との直通運転を開始。この際に10両編成が初めて登場し、既存の編成も組み替えや増結が行われました。
- 2004年: すべての編成が10両編成に統一されました。 この際、編成組み換えによって余剰となった車両がJR東日本に譲渡されています。
このように、路線の拡大と利用者の増加に合わせて、段階的に車両を増やし、編成を長くしてきました。開業当初はわずか4両だった編成が、今では10両編成となり、多くの乗客を運んでいる姿に、りんかい線の発展の歴史が重なります。
これまでに行われた改造やリニューアル
デビューから長い年月が経つ中で、70-000形には時代のニーズや技術の進歩に合わせた様々な改造が施されてきました。
前述の通り、最も大きな改造の一つが主要機器の更新です。 2012年頃から行われたこの工事では、VVVFインバータ装置や補助電源装置(SIV)などが新しいものに交換され、省エネルギー性能の向上と信頼性の確保が図られました。この更新により、走行音が静かになったのは多くの人が感じるところでしょう。
車内では、ドア上の案内表示器がLED式から液晶ディスプレイ(LCD)に交換されたのが大きな変化です。 これにより、視覚的な情報提供が格段に向上しました。座席のモケット(表地)も、当初の水色系のものから、汚れが目立ちにくく落ち着いた雰囲気の濃い青系のものに張り替えられています。
その他にも、JR埼京線へのATACS導入に伴う保安装置の改造や、防犯カメラの設置など、安全性と快適性を高めるためのリニューアルが継続的に行われています。
気になる今後の置き換え計画は?
開業以来、約30年にわたりりんかい線の顔として活躍してきた70-000形ですが、車両の老朽化に伴い、ついに引退の時が近づいています。
東京臨海高速鉄道は、新型車両「71-000形(ななまんいっせんがた)」を導入し、現在在籍する70-000形全8編成80両を置き換えることを発表しています。 新型車両71-000形は、2025年度から営業運転を開始し、2027年度上期までに全編成の導入を完了する計画です。
これにより、70-000形は順次りんかい線での営業運転を終了することになります。
引退後の70-000形はどこへ?
りんかい線から引退した後の70-000形の動向も注目されています。一部の車両は、既にJR九州へ譲渡される動きがあり、筑肥線で活躍している古い車両(103系)を置き換えるのではないかと見られています。 かつてJR東日本へ譲渡された例もあり、今後も他の鉄道会社で第二の活躍をする可能性があり、鉄道ファンの間で大きな話題となっています。
まとめ:りんかい線の顔・東京臨海高速鉄道70-000形の魅力を再発見

この記事では、東京臨海高速鉄道70-000形電車について、その基本情報からデザイン、車内設備、そして歴史と未来に至るまで詳しく解説してきました。
JR東日本の209系をベースとしながらも、独自の丸みを帯びた前面デザインや、木目調を取り入れた温かみのある内装など、随所にこだわりが光る魅力的な車両です。 りんかい線の開業から現在までの発展を支え、埼京線・川越線への直通運転を通じて、首都圏の広域なネットワークの一翼を担ってきました。
新型車両「71-000形」の登場により、りんかい線での活躍はまもなく終わりを迎えますが、その功績が色あせることはありません。 もし、りんかい線や埼京線でこの銀色の電車を見かけたら、この記事で紹介したような細かな特徴や歴史に思いを馳せながら乗車してみてはいかがでしょうか。



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