小田急電鉄の特急「ロマンスカー」と聞くと、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、車体前方に広がる大きな展望席ではないでしょうか。しかし、実際に駅のホームにやってきた車両を見て「これは本当にロマンスカーなの?」と首をかしげてしまうケースがあるようです。その対象となるのが、30000形、通称「EXE(エクセ)」です。
派手なオレンジ色でもなければ、展望席もないその姿は、一見すると地味な通勤特急のように映るかもしれません。ネット上でも「exe ロマンスカーじゃない」というキーワードで検索されることが多く、その個性が誤解を招いている側面があります。しかし、EXEには歴代の車両とは異なる、非常に重要な役割と魅力が隠されています。
本記事では、なぜEXEが「ロマンスカーらしくない」と言われるのか、その理由を徹底的に分析します。同時に、実は沿線住民やビジネスマンから絶大な支持を受けている理由や、リニューアルされた「EXEα」の進化についても詳しく解説していきます。この記事を読めば、次にEXEに乗るのがきっと楽しみになるはずです。
exeが「ロマンスカーじゃない」と感じてしまう主な要因

ロマンスカーというブランドに対して、私たちが抱いているイメージと、30000形「EXE」の現実との間にはいくつかのギャップが存在します。まずは、なぜ多くの人が「これはロマンスカーではない」と感じてしまうのか、その具体的な要因を整理していきましょう。視覚的な特徴や構造的な違いが、その違和感の正体です。
展望席がないことによるインパクトの欠如
ロマンスカーの代名詞といえば、何といっても車両の最前部にある「展望席」です。1963年に登場したNSE(3100形)以来、小田急のフラッグシップモデルには常に展望席が設けられてきました。運転席を2階に上げ、乗客が最前列で景色を楽しめる構造は、子供から大人までを虜にする魅力があります。
しかし、30000形「EXE」にはこの展望席が一切存在しません。先頭車両は一般的な特急車両と同じように運転台が配置されており、正面の大きな窓から景色を独占することはできません。この「展望席がない」という事実だけで、観光客にとっては「期待していたものと違う」という落胆に繋がり、結果として「ロマンスカーじゃない」という評価を生んでしまうのです。
小田急側としても、この車両を投入する際には大きな決断が必要だったはずです。しかし、当時の社会情勢や利用客のニーズを反映した結果、あえて展望席を廃止するという選択がなされました。この割り切りが、ブランドイメージとの乖離を招いた最大の要因と言えるでしょう。
観光よりビジネスを重視した落ち着いた外観
歴代のロマンスカーは、バーミリオンオレンジなどの鮮やかな色彩をまとい、駅のホームでも一際目立つ存在でした。一方で、EXEの外観は「ハーモニック・パールブロンズ」と呼ばれる、落ち着いたメタリックな茶色が基調となっています。このシックな色合いは、街の風景に溶け込みやすく、落ち着いた印象を与えます。
しかし、この「落ち着き」が、特急としての華やかさを求める層には物足りなく映ってしまいます。特急列車というよりも、どこか通勤電車の延長線上にあるような実用的なデザインに見えてしまうのです。特に家族旅行やデートで利用する場合、非日常感を演出する派手な色使いの車両を期待している人にとって、EXEの地味さはデメリットとして認識されがちです。
また、窓の配置や車体のフォルムも、空力特性を追求した流線形というよりは、効率的な空間確保を優先したスクエアな形状に近いものとなっています。こうした「実務的」な雰囲気が、ロマンスカー特有のワクワク感を削いでしまっているのかもしれません。
伝統的な連接台車を採用していない構造の違い
ロマンスカーのもう一つの大きな特徴は、「連接台車(れんせつだいしゃ)」にあります。これは車両と車両の連結部分に車輪がある構造で、乗り心地の向上や騒音低減に寄与してきました。VSEやLSEといった名車たちは、この連接台車を採用することで「ロマンスカーらしい」独特の走行音と安定感を実現していました。
ところが、EXEは一般的なボギー車(各車両に2つの台車がある構造)を採用しています。これにより、1両あたりの車体長を長くすることができ、定員を増やすことが可能になりました。技術的には合理的な選択ですが、鉄道ファンやロマンスカーに詳しい人から見れば、「連接車でないものはロマンスカーの正統な系譜ではない」という厳しい見方が出てしまうのです。
走行中の音も、連接車特有の「タン・タン・タン」というリズムではなく、普通の電車と同じリズムになります。こうした目に見えない構造上の違いが、無意識のうちに「いつものロマンスカーと違う」という違和感を増幅させている側面は否定できません。
かつての名車NSEとの交代劇が与えた印象
EXEが登場した1996年、入れ替わりで引退の時期を迎えていたのが名車NSE(3100形)でした。NSEは展望席を初めて備え、長年小田急の顔として親しまれてきた車両です。その華々しい功績を持つ名車を置き換える存在として現れたのが、展望席のない地味なEXEだったのです。
当時のファンや利用客にとって、この交代劇は衝撃的でした。「せっかくの展望席がなくなってしまうのか」「ロマンスカーはどこへ向かおうとしているのか」という不安や不満の声が上がったのも事実です。新しいものを受け入れる際には常に比較対象が必要ですが、あまりにも前任者が偉大すぎたことが、EXEの評価を難しくしました。
この時の「期待外れ」という記憶が語り継がれ、現在でも「EXEはロマンスカーらしくない」という評価のベースになっている可能性があります。時代背景を考慮すれば合理的な進化だったのですが、感情的な部分でその溝は深かったと言わざるをえません。
なぜEXEは展望席をなくしたのか?
1990年代半ば、バブル崩壊後の日本において、小田急電鉄は「観光客だけでなく、平日の通勤・通学客にも特急を利用してもらいたい」という戦略を立てました。展望席を作るよりも、1人でも多くの人が座れる座席数を確保することを優先した結果、あのような形状になったのです。
30000形「EXE」の開発背景と小田急の戦略

「ロマンスカーじゃない」と言われる理由が分かったところで、今度はなぜ小田急があえてこのような車両を作ったのか、その真意に迫ってみましょう。当時の社会情勢や小田急が直面していた課題を知ることで、EXEが実は「究極の戦略機」であったことが見えてきます。それは、決して妥協ではなく、攻めの姿勢から生まれたものでした。
バブル崩壊後の観光需要と通勤需要のバランス
EXEが開発された1990年代は、景気の低迷により箱根観光の需要が一時的に落ち着きを見せていた時期でした。一方で、沿線の人口増加に伴い、夕方から夜にかけての帰宅時間帯に「座って帰りたい」という通勤客のニーズが急速に高まっていました。この需要に応えることが、当時の小田急にとっての至上命題でした。
従来の展望席付き車両は、観光客には喜ばれますが、定員数が少なく、10両編成にしても収容人数に限界がありました。また、展望席周辺は死角も多く、通勤客が日常的に利用する車両としては効率が悪かったのです。そこで、小田急は「平日は通勤、休日は観光」という二刀流の役割を果たす車両を構想しました。
平日のホームウェイ号として、疲れ切ったビジネスマンを快適に送り届ける。そのための静粛性と収容力を兼ね備えた車両として、EXEは誕生しました。いわば、ロマンスカーの定義を「観光列車」から「高機能な輸送手段」へと拡張させたパイオニアだったのです。
「Excellent Express」に込められた意味
EXEという名称は「Excellent Express(素敵で優れた特急)」の略称です。これまでのロマンスカーが、どちらかというと情緒的な美しさを追求していたのに対し、EXEは機能としての「エクセレント(優秀さ)」を前面に押し出しました。これは、小田急の自信の表れでもあります。
豪華な内装や派手なギミックに頼るのではなく、あくまで移動空間としての質を追求する。その姿勢は、当時の鉄道車両設計のトレンドでもありました。シンプルながらも飽きのこないデザイン、清掃のしやすさ、そして安定した運行性能。これらすべてが「エクセレント」であるというメッセージが込められています。
「ロマンスカー」という名前を使いつつ、EXEというブランドを併記したのも、新しい時代の特急であることを強調したかったからでしょう。この名称からは、従来の枠組みにとらわれない、新しい小田急特急の誇りを感じ取ることができます。
10両編成による圧倒的な輸送力の確保
EXEの最大の特徴の一つは、10両という長い編成で運用できることです。これにより、従来の車両よりも大幅に定員を増やすことに成功しました。例えば、NSEの定員が約450人程度だったのに対し、EXEは10両編成で588人の定員を誇ります。この差は大きく、特に混雑する時間帯の供給力として圧倒的な強みを発揮しました。
一度に多くの人を運べるということは、特急券の予約が取りやすくなるということでもあります。「乗りたいときに、いつでも座れるロマンスカー」を実現するためには、この輸送力が必要不可欠でした。観光シーズンであっても、多くの家族連れやグループ客を一度に収容できる力は、沿線の利便性向上に大きく貢献しました。
また、大きな荷物を持った乗客が増える中で、車内の通路幅やデッキの広さも最適化されました。輸送力を高めるだけでなく、スムーズな乗降を可能にする設計も、EXEが目指した合理的な「エクセレント」の形だったのです。
分割併合機能による運用の柔軟性
EXEは、6両編成と4両編成を連結した10両編成で運行されます。この「6+4」という構成が、非常に柔軟な運用を可能にしています。例えば、相模大野駅で車両を切り離し、一方は箱根湯本へ、もう一方は片瀬江ノ島へ向かうといった多層立ての運行ができるようになりました。
この分割併合機能により、需要の異なる複数の目的地に対して、1本の列車で対応することが可能になります。これは連接台車を採用していては難しかった技術的なメリットです。小田原線の混雑区間を10両で走り、枝分かれする路線ではそれぞれの需要に応じた長さで走る。この効率の良さが、小田急特急のネットワークを支えています。
現在でも、この柔軟性はEXEの大きな武器となっています。特定の時間帯だけ長編成にするなど、無駄のない運行管理を可能にするEXEは、経営的な視点から見ても非常に優れた「稼ぎ頭」といえる車両なのです。
EXEαへのリニューアルで変わった点と進化

登場から20年以上が経過し、EXEもベテランの域に入ってきました。そこで2017年から始まったのが、大規模リニューアルによる「EXEα(エクセ・アルファ)」への進化です。このリニューアルにより、かつて「ロマンスカーじゃない」と不評だった点の一部が解消され、現代的な特急へと生まれ変わりました。具体的にどのような変化を遂げたのか見ていきましょう。
内装の高級感アップと快適な座席の追求
EXEαの最大の変化は、何といっても車内の雰囲気です。かつての少し事務的だった内装から一転し、高級ホテルのような落ち着いた空間へと進化しました。壁面には落ち着いた木目調のパネルが採用され、間接照明を多用することで、夜間の車内をよりドラマチックに演出しています。
座席自体も大きく改良されました。クッション性が向上し、長時間座っていても疲れにくい設計になっています。また、シートのモケット(布地)のデザインも一新され、より上質な手触りになりました。かつてのEXEが「実用的」であったのに対し、EXEαは「乗ること自体が楽しみになる空間」へとシフトしています。
天井の照明もLED化され、明るさを調節できるようになりました。これにより、早朝の爽やかな光や、夜間のリラックスしたムードなど、時間帯に合わせた空間演出が可能になっています。この変化により、観光客からも「これなら特急料金を払う価値がある」というポジティブな声が増えています。
バリアフリー対応と多機能トイレの設置
現代の鉄道車両において欠かせないのが、バリアフリーへの対応です。EXEαでは、車椅子利用者の方が快適に利用できるよう、専用のスペースや多機能トイレが新設されました。以前のEXEに比べて通路の段差も解消され、誰もが安心して利用できる設計になっています。
多機能トイレは、おむつ替えシートやベビーキープを完備し、小さなお子様連れの家族にも優しい仕様です。ロマンスカーは家族旅行での利用も多いため、こうした設備の充実が直接的に満足度の向上に繋がっています。清潔感も大幅にアップしており、長時間の移動でもストレスを感じさせません。
また、点字案内や音声案内といったソフト面でのバリアフリーも強化されました。多様な乗客が利用するロマンスカーだからこそ、こうした細やかな配慮が「エクセレント」なサービスとして結実しているのです。
荷物置き場や電源コンセントの充実
近年の旅行スタイルに合わせて、大きなスーツケースを置ける専用の荷物置き場が設置されました。以前は座席の足元や網棚に置くしかなかった大きな荷物も、専用スペースがあることで安心して預けることができます。これは特に、インバウンド(訪日外国人客)の増加や、海外旅行帰りの乗客から高く評価されています。
さらに、多くのユーザーが切望していた電源コンセントも設置されました。全席ではありませんが、窓側の座席を中心に設置されており、スマートフォンの充電やビジネスシーンでのノートパソコン使用に威力を発揮します。この設備があるだけで、ビジネス特急としての価値は飛躍的に高まりました。
さらに、フリーWi-Fiの導入も進んでおり、車内でのネット環境も充実しています。移動時間を有効に活用したい現代人にとって、EXEαの「つながる環境」は、展望席の有無を上回るメリットになることもあります。
外装デザインの一新と「EXEα」のブランド化
外観デザインも大きく変更されました。かつての単色に近いブロンズカラーから、メタリックシルバーを基調に、オレンジ色のラインを効果的に配置したカラーリングになりました。このオレンジは、ロマンスカーの伝統色を意識したものであり、ひと目で「ロマンスカーの仲間である」ことが分かるようになっています。
また、ロゴマークも「EXEα」という新しいものが採用され、ブランドイメージの再構築が行われました。シルバーの車体は非常にシャープで清潔感があり、晴れた日の太陽光を反射して輝く姿は、かつての地味な印象を払拭するに十分な美しさを持っています。
このように、見た目と機能の両面をアップデートしたことで、EXEαは「ロマンスカーらしくない」という批判を跳ね除け、新しいスタンダードとしての地位を確立しました。古いものを大切にしながら、現代のニーズに合わせて進化する。EXEαは、その姿勢を体現する車両となったのです。
| 項目 | 従来のEXE | EXEα(リニューアル後) |
|---|---|---|
| 外装カラー | ブロンズメタリック | ムーンライトシルバー+オレンジライン |
| 座席装備 | テーブル、フットレスト | コンセント(一部)、新デザインシート |
| バリアフリー | 限定的 | 車椅子スペース・多機能トイレ完備 |
| 雰囲気 | 落ち着いたビジネス調 | 高級感のあるモダンな空間 |
実際に乗ってみてわかるEXEのメリットと隠れた魅力

スペックや外見の話ばかりではなく、実際に乗客として利用した際に感じる「良さ」について深掘りしてみましょう。EXEが長年愛され続け、今も現役でバリバリ働いているのは、乗った人にしか分からない快適さがあるからです。他の派手なロマンスカーにはない、EXE独自の魅力を4つのポイントで紹介します。
予約が取りやすく急な移動でも利用しやすい
展望席のあるGSE(70000形)などは非常に人気が高く、特に休日の良い時間帯は発売開始直後に満席になってしまうことが珍しくありません。一方で、EXEは座席数が多いため、比較的直前まで空席が残っていることが多いというメリットがあります。これは「移動の手段」として考えた場合、非常に心強いポイントです。
例えば、「今日は疲れたから座って帰りたいな」と思った仕事帰りや、予定が少し早まった帰り道。駅の券売機でサッと特急券を買える可能性が最も高いのがEXEなのです。特別な記念日ではなく、日常の延長線上でロマンスカーを利用したい人にとって、この「予約の取りやすさ」は何物にも代えがたい魅力となります。
また、団体客などの大きなグループでもまとまった席を確保しやすいのも、輸送力の高いEXEならでは。イベントや親戚の集まりなどで大人数で移動する際、EXEはまさに頼れる味方となってくれます。
落ち着いた空間がもたらす静粛性と居住性
展望席がないことは、裏を返せば「車内に騒がしい観光客や子供が少ない」という傾向を生んでいます。もちろん例外はありますが、EXEはその特性上、ビジネス利用や静かに過ごしたい大人の利用者が多いため、車内が非常に静かな傾向にあります。
読書に没頭したい、少し仮眠をとりたい、あるいは車内で集中して仕事を片付けたい。そんなシーンにおいて、EXEの落ち着いた雰囲気は最高の環境を提供してくれます。連接車のような独特の振動が少ないことも、揺れに敏感な人にとってはメリットになり得ます。ボギー車ならではの安定した乗り心地は、高速走行時でも安心感を与えてくれます。
派手な演出がない分、車内での時間を「自分だけのもの」として贅沢に使える。この高い居住性こそが、多くのリピーターを惹きつける理由の一つです。ロマンスカーを「移動する書斎」や「休息の場」と捉えている人にとって、EXEは最適な選択肢なのです。
シートピッチの広さとゆったりとした座り心地
EXEの座席間隔(シートピッチ)は、実は新幹線の普通車などと比べても遜色ない、ゆったりとした広さが確保されています。足を思い切り伸ばすことができ、リクライニングの角度も十分です。前の座席の下に足を入れるスペースがあるため、公称の数値以上に広く感じることでしょう。
特にEXEαに更新された車両では、座席自体のホールド感が増しており、包み込まれるような安心感があります。テーブルのサイズも実用的で、飲み物やお弁当を置いても安定しています。また、肘掛けの形状なども工夫されており、隣の席の人と干渉しにくい設計になっています。
長距離の乗車であっても、「狭い」と感じることはまずありません。このゆとりある空間は、特急料金を払う価値を十二分に感じさせてくれます。観光車両の華やかさはありませんが、椅子としての性能を追求したEXEのシートは、鉄道ファンからも高く評価されています。
窓からの景色を楽しみやすい大型の側面窓
展望席はありませんが、EXEの側面窓は非常に大きく取られています。座席に座ったまま、流れる景色をワイドに楽しむことができるのです。特に丹沢山系が見えてくる秦野付近や、早川を渡る小田原付近の景色は、EXEの大きな窓から眺めると迫力があります。
窓枠の下部分も低めに設計されているため、小さなお子様でも外の景色を見やすくなっています。展望席争奪戦に敗れてしまったとしても、EXEの窓際席を確保できれば、十分にロマンスカーらしい車窓の旅を満喫できるはずです。
また、カーテンではなくフリーストップ式のブラインドが採用されているため、日差しの入り具合を細かく調整できるのも便利です。景色の良さと実用性のバランスが取れた設計。それもまた、EXEが持つ隠れた魅力と言えます。
EXEの隠れたこだわり:実はEXEの窓ガラスには紫外線カットの加工が施されており、日差しの強い日でも車内温度の上昇を抑え、お肌にも優しい仕様になっています。リニューアル車ではその機能がさらに強化されています。
歴代ロマンスカーの中でのEXEの立ち位置

EXEを単体で見るのではなく、他のロマンスカーと比較することで、その独自のポジションがより明確になります。小田急は現在、複数の車種を使い分けることで、多様な客層のニーズに応えています。その中でEXEがどのような「役割」を担っているのかを整理してみましょう。これを理解すれば、EXEが欠かせない存在であることが分かります。
華やかなGSEやVSEとの明確な役割分担
最新のGSE(70000形)や、引退してしまいましたがVSE(50000形)は、ロマンスカーのイメージを牽引する「フラッグシップ」です。これらは展望席を備え、観光を主な目的とした華やかな役割を持っています。言わば、ロマンスカーという演劇の「主役」です。
対してEXEは、その主役たちを支え、日々の運行を確実に回していく「名脇役」や「実力派俳優」のような存在です。主役だけでは演劇が成立しないように、全列車を展望車にすることはできません。圧倒的な輸送力と汎用性を持つEXEがいるからこそ、GSEのような贅沢な設計の車両も存続できるのです。
小田急は「ハレの日」の利用をGSEなどが担い、「日常の快適」をEXEなどが担うという、非常に合理的な使い分けを行っています。この役割分担があるからこそ、私たちは予約状況や目的に合わせて、最適なロマンスカーを選べるようになっているのです。
沿線住民の「足」として支える日常の特急
EXEが最も輝くのは、実は観光シーズンではなく平日の夕方です。新宿駅のホームに並ぶ多くのビジネスマン。彼らの目的は景色ではなく「座って、静かに、確実に帰ること」です。そのニーズに100%応えているのがEXEなのです。
通勤客にとって、展望席はあってもなくても構いません。それよりも、定員が多くて予約が取りやすく、電源があって、座席が快適であることの方がはるかに重要です。沿線に住む人々にとって、EXEは最も身近で頼りになる特急であり、生活の一部となっています。
「ロマンスカー」という名前を、夢の乗り物から「生活を豊かにするツール」へと変えた功績。それこそが、EXEが沿線住民に愛されている本当の理由かもしれません。日常を支える特急としての地位は、他のどの車種よりも揺るぎないものです。
鉄道ファンから見た評価の変遷
登場当初、鉄道ファンからは「伝統を壊した」と批判されることも多かったEXEですが、20年以上が経過した今、その評価は大きく変わりつつあります。厳しい経営環境の中で、ロマンスカーブランドを守り抜くために、どれほどEXEの効率性が寄与してきたかが理解されるようになったからです。
また、リニューアルされたEXEαの完成度の高さも、評価を好転させる大きなきっかけとなりました。「地味だけど実は一番快適かもしれない」という通好みな評価も聞かれるようになっています。さらに、現在では最古参の車種となりつつあるため、「今のうちにEXEの独特な雰囲気を楽しんでおこう」というファンも増えています。
時間が経つにつれ、EXEもまた「小田急の歴史を作ってきた立派な一員」として認められるようになりました。派手さはありませんが、その堅実な仕事ぶりこそが、今や鉄道ファンにとっても愛すべき個性となっているのです。
歴代ロマンスカーとの比較
- LSE(7000形): 伝統的なオレンジ色、展望席あり(引退)
- VSE(50000形): 白い流線形、展望席・連接台車(引退)
- GSE(70000形): 赤い最新型、大型展望席あり(現役)
- MSE(60000形): 青い地下鉄直通車両(現役)
- EXE/EXEα(30000形): 圧倒的な輸送力、ビジネス・日常重視(現役)
exeはロマンスカーじゃない?という疑問への答えとまとめ
ここまで、30000形「EXE」および「EXEα」の様々な側面を見てきました。最後に、この記事のテーマである「exeはロマンスカーじゃない」という疑問に対する答えをまとめましょう。その実体を知れば、EXEが間違いなくロマンスカーの系譜を継ぐ重要な一台であることが分かるはずです。
結論から言えば、EXEは間違いなく「ロマンスカー」であり、その可能性を広げた功労者です。展望席がない、連接車ではないといった表面的な違いは、当時の小田急が下した「より多くの人に快適さを提供する」という英断の結果でした。観光に特化していたロマンスカーを、ビジネスや日常利用にまで広げたのは、まさにこの車両なのです。
今回ご紹介したEXEのポイントを改めて振り返ります。
・展望席がないのは、輸送力と効率を最大化するための戦略的判断。
・EXEαへのリニューアルにより、内装の高級感とバリアフリー性能が飛躍的に向上。
・予約の取りやすさと静粛性は、ビジネスマンやリピーターから絶大な支持を得ている。
・他の華やかな車種との役割分担をこなす、小田急特急の屋台骨的存在。
次に駅でEXE(あるいはEXEα)を見かけたときは、ぜひその落ち着いた姿に注目してみてください。そこには、派手さよりも「乗る人の快適さ」を第一に考えた、小田急電鉄の真摯なものづくり精神が宿っています。そして、機会があればぜひ一度、その広い座席に身を任せてみてください。きっと「あ、これも立派なロマンスカーだ」と感じられるはずです。
「ロマンスカーじゃない」という声は、ある意味でこの車両が果たした「日常化」という成功の裏返しでもあります。特別すぎる存在から、いつでも寄り添ってくれる贅沢な空間へ。EXEが切り拓いたその道は、これからも多くの乗客に安らぎのひとときを提供し続けていくことでしょう。




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