小田急電鉄の特急ロマンスカーの中でも、かつて「あさぎり」という愛称で親しまれた列車をご存知でしょうか。現在は「ふじさん」という名称に変更されていますが、新宿から御殿場までを直通で結ぶ唯一無二の存在として、今なお多くの鉄道ファンや観光客に愛され続けています。
この記事では、小田急あさぎりのルーツから歴代の豪華な車両たち、そして現在の運行状況やおすすめの楽しみ方までを詳しく解説します。鉄道の旅が好きな方はもちろん、週末の御殿場へのお出かけを考えている方にも役立つ情報をたっぷりとお届けします。
小田急線とJR御殿場線を跨いで走るこの列車の魅力を知ることで、いつもの移動がもっと特別なものに変わるはずです。歴史的な背景を知り、今の姿を深く理解しながら、あさぎり(現ふじさん)の世界を一緒に覗いてみましょう。
小田急あさぎり(特急ふじさん)の基本情報と現在の運行

かつて「特急あさぎり」と呼ばれていたこの列車は、現在、名称を「ふじさん(Mt. Fuji)」へと変更して運行されています。名称は変わりましたが、小田急新宿駅とJR御殿場駅を結ぶという役割は変わっておらず、首都圏から富士山周辺へ向かうための重要なアクセス手段として重宝されています。
「あさぎり」から「ふじさん」への改称の背景
2018年のダイヤ改正により、長年親しまれてきた「あさぎり」という名称は「ふじさん」へと改められました。この改称の最大の理由は、訪日外国人観光客にとってのわかりやすさを重視したためです。「あさぎり」という言葉は日本人には風情を感じさせる素敵な響きですが、海外からの旅行客にとっては、目的地がどこなのかが伝わりにくいという課題がありました。
世界的な観光地である「富士山(Mt. Fuji)」をそのまま列車名に冠することで、直感的に目的地を理解してもらえるようになったのです。同時に、車内の案内や放送も多言語化がさらに進み、誰もが利用しやすい国際的な観光特急としての色合いが強くなりました。かつてのファンからは寂しがる声もありましたが、現在は新しい名前もすっかり定着しています。
現在の運行区間と主な停車駅
現在の特急「ふじさん」は、小田急線の新宿駅を出発し、代々木上原、新百合ヶ丘、相模大野、本厚木、秦野、松田を経由して、JR御殿場線の駿河小山、御殿場へと向かいます。特筆すべきは、小田急線とJR線の境界駅である松田駅での挙動です。ここでは乗務員が小田急からJRの運転士・車掌へと交代する光景を見ることができます。
新宿から御殿場までの所要時間は、約1時間30分から1時間40分程度です。乗り換えなしで御殿場の中心部までアクセスできる利便性は非常に高く、特に大きな荷物を持っている旅行者や、ゆったりと景色を楽しみたい人にとっては最適な選択肢と言えるでしょう。週末を中心に、多くの観光客やショッピング客で賑わう人気の路線です。
現在の使用車両「MSE(60000形)」
現在、この運用を担っているのは、青い車体が美しい「MSE(60000形)」です。この車両は「Multi Super Express」の略で、地下鉄千代田線への乗り入れから、今回のようなJR線への直通運転まで、多目的に活躍できる非常に高性能な車両です。流線形の先頭形状と、フェルメール・ブルーと呼ばれる落ち着いた青色が、都会の景色にも富士山麓の自然にもよく映えます。
車内は木目調を多用した温かみのあるデザインで、リラックスして過ごせる空間が広がっています。各座席には電源コンセント(一部座席を除く)やテーブルが備えられており、長時間の移動でもストレスを感じさせません。また、全席指定席となっているため、事前に予約を済ませておけば、新宿から終点の御殿場まで確実に座って移動できるのが大きなメリットです。
時代を彩った小田急あさぎりの歴代車両たち

小田急あさぎりの歴史を語る上で欠かせないのが、これまでに活躍してきた名車両たちの存在です。あさぎりは、その時代ごとの最新技術や豪華な設備を詰め込んだ車両が導入されてきました。ここでは、特に印象深い歴代の車両たちを振り返ってみましょう。
短距離特急の傑作「SSE(3000形)」
1968年に連絡準急から連絡急行へと格上げされた際、導入されたのが「SSE(Short Super Express)」です。もともとは小田急の看板列車だった「SE車」を、御殿場線の勾配に合わせて5両編成に短縮・改造した車両でした。独特の流線形と低い車体が特徴で、当時の鉄道ファンからは非常に高い人気を誇っていました。
SSEはディーゼル車が主流だった御殿場線において、電化とともに華々しくデビューを飾りました。当時はまだ新幹線からの乗り換え需要も多く、国鉄(現JR)との協力体制のもとで運用されていました。この車両の登場によって、新宿から富士山方面へのアクセスが一気に近代化されたと言っても過言ではありません。長年にわたり、あさぎりの顔として親しまれました。
バブル期の象徴「RSE(20000形)」
1991年、あさぎりは急行から特急へと格上げされ、それに伴い導入されたのが「RSE(Resort Super Express)」です。バブル景気の名残があった時期に登場したこの車両は、2階建て車両を2両連結した豪華な仕様で大きな話題となりました。明るいパステルカラーの車体は、まさにリゾートへ向かう高揚感を演出するものでした。
2階部分にはグリーン席(小田急ではスーパーシート)が設けられ、大きな窓からは遮るもののない絶景を楽しむことができました。また、1階部分にはセミコンパートメントが用意されるなど、グループ旅行にも対応した多彩な設備が魅力でした。同時期にJR東海が製造した「371系」と相互に乗り入れる形をとり、豪華な特急あさぎりの黄金時代を築き上げました。
JR東海の意地を見せた「371系」
小田急のRSE車とペアを組んで運行されていたのが、JR東海が開発した「371系」です。新幹線100系を彷彿とさせるスタイリッシュな白い車体に、青い帯を巻いたデザインは非常に都会的でした。こちらもRSEと同様に2階建て車両が連結されており、洗練された内装が特徴でした。
当時、私鉄の車両とJRの車両が同じ区間を同じダイヤで走るというのは非常に珍しく、鉄道ファンの間では「どちらの車両に乗れるか」が楽しみの一つとなっていました。しかし、時代の変化とともに車両の老朽化が進み、また運行コストの最適化が進められた結果、2012年にRSEと371系は惜しまれつつも引退を迎えました。その後、現在のMSEへとバトンが渡されたのです。
小田急線とJR御殿場線を結ぶ「連絡線」の不思議

小田急あさぎり(現ふじさん)の運行において、最も特徴的なのが松田駅周辺の配線です。私鉄である小田急線と、JR線がどのようにつながっているのか、その秘密に迫ります。ここには鉄道マニアならずとも興味を惹かれる「境界線」のドラマがあります。
あさぎり号が通る「連絡線」とは?
小田急線の「新松田駅」とJR御殿場線の「松田駅」の間には、全長数百メートルほどの短い連絡線が存在します。新宿から来た列車はこの連絡線を通ることで、スムーズにJRの線路へと入り込むことができるのです。
松田駅での「特殊な停車」と乗務員交代
小田急新宿駅から出発した列車は、新松田駅の直前で左に大きくカーブし、急勾配を下りながら連絡線へと入ります。そのままJR御殿場線の松田駅1番線ホームへと滑り込みます。ここで非常に珍しい光景が見られます。それは小田急の運転士とJRの運転士による交代劇です。
ホーム上では制服の異なる二つの会社の職員が顔を合わせ、指差喚呼を行いながら業務を引き継ぎます。私鉄とJRが直通運転を行う路線は日本にいくつかありますが、ホームの構造や運行形態を含め、松田駅ほどドラマチックに会社が入れ替わる場所は多くありません。乗客はこの停車時間中に、これからJR線という別のネットワークへ旅立つ実感を味わうことができます。
なぜ連絡線が作られたのか
この連絡線のルーツは非常に古く、戦後間もない時期にまで遡ります。もともとは小田急沿線から富士山麓や沼津方面への観光需要に応えるために、国鉄(当時)との相互乗り入れが計画されました。当初は蒸気機関車が牽引する客車を直通させる構想もありましたが、最終的にはディーゼルカーによる運行からスタートしました。
この連絡線があるおかげで、乗客は重い荷物を持って駅の外を歩き、乗り換える必要がなくなりました。もしこの短い線路がなければ、御殿場へのアクセスは今よりも格段に不便だったはずです。わずかな距離のレールですが、東京と静岡の山間部を結ぶ重要な絆としての役割を果たしているのです。
直通運転ならではの「会社境界」のルール
小田急線とJR線を跨いで走るため、切符の扱いも少し特殊です。運賃は小田急の区間とJRの区間を合算する形になり、特急料金もそれぞれの会社分が必要となります。しかし、現在はICカードの普及や発券システムの高度化により、利用者は会社の違いを意識することなく、新宿から御殿場までの切符を一括で購入できるようになっています。
また、車内放送のチャイムやメロディも、小田急区間とJR区間で切り替わることがあります。細かい点ですが、鉄道好きにとっては「今、会社が変わったな」と感じられるポイントです。一つの列車に乗りながら、異なる鉄道会社のサービスを体験できるのも、あさぎり号(特急ふじさん)ならではの面白さと言えるでしょう。
富士山を望む車窓の楽しみ方とおすすめの座席

特急「ふじさん」に乗る最大の醍醐味は、やはり車窓から眺める富士山の雄大な姿です。新宿からわずか1時間半ほどで、都会の喧騒を離れ、自然豊かな景色の中を走り抜けます。ここでは、景色を最大限に楽しむためのヒントをまとめました。
富士山が綺麗に見える座席はどちら側?
新宿から御殿場へ向かう下り列車の場合、進行方向に向かって「右側(D席側)」が富士山を望むベストポジションです。特に秦野駅を過ぎてから渋沢駅付近の山間部や、松田駅を出発して御殿場線内に入ると、目の前に大きな富士山が現れます。空気が澄んでいる冬場は、雪をいただいた美しい姿を鮮明に見ることができます。
逆に、上り列車の新宿行きに乗る際は「左側(A席側)」が富士山側になります。ただし、御殿場線の区間はカーブが多いため、場所によっては反対側からも富士山が見える瞬間があります。それでも基本的には「海側ではなく山側」の座席を確保するのが、景色を楽しむための鉄則です。予約の際は、座席表を確認しながら慎重に選んでみてください。
絶景ポイント「酒匂川」と「山岳区間」
松田駅を過ぎてJR御殿場線に入ると、列車は一気に山深い景色の中へと進んでいきます。ここで注目したいのが、酒匂川(さかわがわ)に沿って走る区間です。鉄橋を渡るたびに川の流れが左右に現れ、四季折々の渓谷美を楽しむことができます。新緑の季節や紅葉の時期は、特に鮮やかな色彩が窓の外に広がります。
また、駿河小山駅から御殿場駅にかけては、かつて「東海道本線」だった名残を感じさせる重厚な石積みのトンネルや、力強い勾配を登るエンジンの音が響きます(現在は電車ですが、雰囲気は残っています)。かつての名残を感じながら、次第に近づいてくる富士山を待つ時間は、まさに鉄道旅の贅沢なひとときと言えるでしょう。
MSEの大きな窓から楽しむ流れる景色
現在使用されているMSEは、窓が非常に大きく設計されており、どの座席からでも開放感のある景色を楽しむことができます。車内は落ち着いた色調で統一されているため、窓の外の景色が絵画のように浮き上がって見えます。特に最前部と最後部の車両は、展望席のような構造ではありませんが、前方や後方の視界が開けており、運転士気分を少しだけ味わうことができます。
座席自体もホールド感があり、長時間の乗車でも疲れにくい仕様になっています。車内には自動販売機などの設備はありませんが(2024年現在)、乗車前に新宿駅や御殿場駅で飲み物やお弁当を買い込んで、景色をおかずに食事を楽しむのがおすすめです。流れる景色を眺めながら過ごす時間は、日常の疲れを癒してくれる最高のご褒美になります。
御殿場駅を拠点にした観光とスマートな予約術

終点の御殿場駅は、単なる鉄道の駅以上の役割を持っています。そこから広がる観光地へのゲートウェイとして、あさぎり号(特急ふじさん)をどのように使いこなすかが、充実した旅の決め手となります。便利なアクセス方法と、賢い予約の仕方を確認しておきましょう。
御殿場プレミアム・アウトレットへのアクセス
多くの乗客の目的地となっているのが「御殿場プレミアム・アウトレット」です。御殿場駅からは、アウトレットへ向かう無料のシャトルバスが約15分間隔で運行されています。特急ふじさんの到着時間に合わせてバスが運行されていることも多いため、非常にスムーズに移動することができます。
アウトレットは広大な敷地に世界的なブランドが並び、富士山を背景にショッピングが楽しめるのが魅力です。特急を利用すれば、たくさん買い物をしても帰りは座って帰れるため、体力的に非常に楽です。新宿まで重い荷物を持って満員電車に揺られるストレスがないのは、特急ふじさんを利用する大きな利点の一つです。
e-Romancecarを活用した便利な予約
小田急あさぎり(特急ふじさん)に乗るなら、小田急電鉄のオンライン予約サービス「e-Romancecar」の利用が最も便利です。会員登録なしでもスマートフォンから手軽に特急券を購入でき、画面を提示するだけで乗車可能です。事前に座席指定ができるため、前述した富士山側の席をピンポイントで狙うことができます。
ただし注意点として、JR線区間(松田〜御殿場)を含む特急券を購入する場合、一部の操作に制限がある場合があります。駅の券売機で購入する方が確実なケースもありますが、基本的にはオンラインで空席を確認し、確保しておくのが安心です。特に土日の午前中の下り便と、夕方の上り便は満席になりやすいため、早めの予約を心がけましょう。
お得なフリーパスと料金の仕組み
富士山周辺や箱根を周遊するなら、「富士箱根パス」などのフリーパスを検討してみてください。これらを利用すると、特定の区間の運賃が無料になったり、観光施設の割引が受けられたりします。特急料金は別途必要になりますが、トータルの旅行代金を抑えることができます。
また、特急ふじさんの料金体系は「小田急特急料金」と「JR特急料金」の合算です。新宿から御殿場までの場合、合計で1,500円前後の特急料金(大人・通常期)がかかります。これに運賃が加算されますが、高速バスと比較すると定時制に優れ、渋滞の心配がないのが鉄道の強みです。特に帰路の渋滞に巻き込まれたくない方には、特急利用が賢い選択となります。
ふじさん号の豆知識:実は御殿場駅のホームには、かつての名残で非常に長いホームが存在します。これは昔、10両編成以上の長い列車が停まっていた時代の名残で、現在のMSE(6両編成)が停まると、少し余白が目立ちます。そんな歴史の断片を探すのも面白いですよ。
小田急あさぎり(特急ふじさん)の魅力を再発見する旅のまとめ
かつての「小田急あさぎり」から、現在の「特急ふじさん」へと受け継がれてきたこの列車は、単なる移動手段を越えた多くの魅力が詰まっています。新宿という大都会から、富士山の麓にある御殿場という異世界を一直線に結ぶルートは、まさに鉄道の醍醐味が凝縮された区間と言えるでしょう。
歴代の車両たちが築き上げてきた歴史の重みを感じながら、最新のMSEの快適な車内で過ごす時間は、日々の忙しさを忘れさせてくれます。松田駅での珍しい乗務員交代や、窓いっぱいに広がる富士山の絶景、そして駅を降りた後に広がる豊かな観光資源。これらすべてが、あさぎり号(特急ふじさん)という列車のアイデンティティを形作っています。
週末のちょっとした贅沢に、あるいは大切な人との観光旅行に、ぜひ小田急あさぎりの系譜を継ぐ「特急ふじさん」を選んでみてはいかがでしょうか。青い車体に乗り込み、窓の外に流れる景色が都会から緑へと変わっていく様子を楽しめば、きっと新しい発見や感動に出会えるはずです。富士山を眺めながら、ゆったりとしたレールの響きに身を任せる旅へ出かけましょう。





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