東急電鉄の車両と聞いて、ステンレス車体に「赤帯」を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。その代表格ともいえるのが、かつて東横線の顔として活躍した東急9000系です。1986年のデビュー以来、そのシャープなデザインと快適な車内で多くの利用者に親しまれてきました。
しかし、時代の流れとともに活躍の場は東横線から大井町線へと移り、特徴的だった赤帯もオレンジ色のグラデーション帯へと変更されました。この記事では、なぜ9000系が「赤帯」をまとって登場したのか、その輝かしい歴史から、帯の色が変わった背景、そして近年話題となった「赤帯復活」や今後の動向まで、東急9000系と赤帯にまつわる情報を詳しく、そして分かりやすく解説していきます。
東急9000系と象徴的な「赤帯」の時代
東急9000系は、昭和の終わりから平成にかけて東急電鉄の新しい標準を築いた画期的な車両でした。その象徴ともいえるのが、車体に巻かれた鮮やかな赤帯です。ここでは、9000系の華々しいデビューから、赤帯が採用された背景、そして東横線での活躍に焦点を当ててご紹介します。
華々しいデビューと車両の概要
東急9000系は、1986年(昭和61年)3月9日に営業運転を開始した、東急電鉄の通勤形電車です。 当時、省エネルギー性能に優れた最新技術であったVVVFインバータ制御を東急で初めて本格的に採用した車両として、大きな注目を集めました。 軽量ステンレス製の車体は、それまでの車両よりもすっきりとした印象を与え、乗り心地を向上させるボルスタレス台車など、数々の新機軸が盛り込まれていました。
車内も、従来の車両から一新されました。座席の仕切りや荷棚の形状が工夫され、快適性が向上しました。また、東急で初めて自動放送装置が搭載され、LED式の車内案内表示器が千鳥配置されるなど、乗客への情報提供も格段に進歩しました。 当初は東横線に8両編成が、大井町線に5両編成が1本投入され、1991年までに合計117両が製造されました。 まさに、9000系は東急電鉄の次世代を担うフラッグシップ車両として、華々しくデビューを飾ったのです。
なぜ「赤帯」が採用されたのか?デザインの秘密
東急9000系の外観で最も特徴的なのが、車体の側面と正面に巻かれた鮮やかな赤帯です。 この赤色は、東急電鉄のコーポレートカラーであり、会社の顔としての役割を担っていました。 軽量ステンレスの無機質な車体に赤帯を配することで、車両全体が引き締まり、スピード感と都会的な洗練さを演出しています。
特に、側面窓下に巻かれた赤帯は、ステンレス車体の凹凸(ビード)を利用したデザインが秀逸です。 上が太く、下が細い2本のラインになっており、単なる一本の帯ではない、凝ったデザインが採用されました。 このデザインは、9000系以降に登場する1000系や2000系にも受け継がれ、当時の「東急の電車」のイメージを確立しました。正面は、それまでの切妻(きりづま)スタイルを踏襲しつつも、将来の地下鉄乗り入れを想定して非常用の貫通扉が設置されました。 この貫通扉を運転席から見て左側(助士席側)に寄せることで、運転士の視界を広く確保するという工夫も凝らされています。
9000系の赤帯デザインは、機能性と美しさを両立させた、まさに東急の「完成形」ともいえるスタイルだったのです。
主に活躍した路線と当時の役割
赤帯をまとった東急9000系の主な活躍の舞台は、東横線でした。 渋谷と横浜という2大都市を結ぶ東急の基幹路線において、9000系は「東横線のプリンス」とも呼ばれるほどの花形車両でした。 最新鋭の性能と快適な乗り心地で、特急から各駅停車まで幅広く運用され、多くの通勤・通学客の足として活躍しました。
2004年のみなとみらい線開業後は、横浜を越えて元町・中華街まで乗り入れ、活躍の範囲をさらに広げました。 当時の東横線は、9000系のほか8000系や8090系といったステンレスに赤帯の車両が多く、統一感のある編成美を見ることができました。 そんな中でも、最新の設備を備えた9000系は、乗客にとっても「当たりの車両」という特別な存在でした。長きにわたり東横線の主力として走り続けた9000系ですが、その役割はひとつの転機を迎えることになります。
東横線からの転身と帯色の変化

東横線の顔として長年親しまれてきた9000系ですが、2013年を境にその姿を東横線から消し、大井町線へと活躍の場を移します。それに伴い、トレードマークだった赤帯も変更されることになりました。ここでは、9000系が転身を遂げた背景と、帯色が変更された理由、そして赤帯時代に見られた特別な編成について解説します。
東横線から大井町線へ – 転属の背景
9000系が東横線から大井町線へ転属した最大の理由は、2013年3月の東急東横線と東京メトロ副都心線の相互直通運転開始です。 この直通運転に対応するため、東横線には新型車両である5050系が導入されました。 9000系は、副都心線のワンマン運転やホームドアに対応する改造が難しく、直通運転の対象から外れることになりました。
その結果、東横線で運用されていた9000系は、2009年頃から順次8両編成から5両編成に短縮され、大井町線へと転属していきました。 そして、相互直通運転が開始される前日の2013年3月15日をもって、9000系は東横線での営業運転を終了しました。 最新鋭車両としてデビューした9000系も、時代の大きな変化の中で、新たな役割を担うことになったのです。
グラデーション帯への変更理由
大井町線に転属した9000系は、外観に大きな変化がありました。それは、正面の赤帯がオレンジ色を基調としたグラデーション帯に変更されたことです。 これは、大井町線のラインカラーに合わせたもので、誤乗防止の目的もありました。
当時、大井町線の急行列車は田園都市線の溝の口駅まで乗り入れており、同じく田園都市線を走る車両との識別をしやすくする必要があったのです。 正面には「大井町線」のステッカーも貼られ、完全に大井町線仕様の顔つきとなりました。 長年親しまれた赤帯の姿が見られなくなったことに、寂しさを感じたファンも少なくありませんでした。しかし、このカラーリング変更は、9000系が大井町線の新しい主力車両として地域に根付いていくための、重要なステップでもありました。
帯色の変遷
- デビュー時(東横線など):車体全体に赤帯
- 大井町線転属後:正面のみオレンジのグラデーション帯、側面は帯なし
特別な存在「TOQ-BOX」とシャボン玉塗装
赤帯時代の9000系には、ひときわ目を引く特別な編成が存在しました。それが「TOQ-BOX(トークボックス)」と呼ばれる広告貸切列車です。 TOQ-BOXに指定された編成は、車内広告が特定の企業や商品で統一されるほか、車体にも特別な装飾が施されました。
9000系では、9006Fと9013Fの2編成がTOQ-BOXとして活躍しました。 9006Fには虹や楽器、音符などのカラフルなステッカーが、そして9013Fには大小さまざまなシャボン玉のステッカーが車体にラッピングされ、多くの利用者の目を楽しませてくれました。 特にシャボン玉塗装の9013Fは、その可愛らしいデザインから子どもたちにも大人気で、見かけると幸運が訪れるかのような特別な存在でした。 これらの装飾は、似たような車両が多かった東横線において、編成ごとの個性を際立たせるアクセントとなっていました。
赤帯の記憶を未来へつなぐ特別編成
大井町線でグラデーション帯の姿がすっかり定着した9000系ですが、引退が近づくにつれてファンを喜ばせるサプライズが待っていました。それは、かつての象徴であった「赤帯」の復活です。ここでは、多くの注目を集めた赤帯リバイバル編成の登場や、それに伴うイベントについてご紹介します。
復活!大井町線での赤帯リバイバル編成
2025年4月12日、多くの鉄道ファンが待ち望んだ出来事が起こりました。大井町線で運行されている9000系のトップナンバー編成である9001Fの正面の帯が、デビュー当時の赤帯に復刻されたのです。 これは、9000系が数年後に引退を予定していることから、「長年にわたりご利用いただいたお客さまに感謝の気持ちをお伝えしたい」という運転士や車掌の声がきっかけで実現しました。
グラデーション帯に見慣れていた大井町線の沿線に、約12年ぶりに赤帯の9000系が帰ってきたことは、大きな話題となりました。 この復刻は、単なるノスタルジーに留まらず、一つの時代を築いた車両への敬意と、それを支えてきた現場の社員、そして利用客への感謝の気持ちが込められた、心温まる企画だったと言えるでしょう。その後、他の編成にも赤帯復刻の動きが広がり、ファンをさらに喜ばせています。
9000系の引退は、後継車両となる6020系(5両編成)の導入に伴うもので、2025年夏以降、順次置き換えが進められる予定です。
記念イベントやグッズ展開
赤帯の復活に合わせて、様々な記念イベントも企画されました。中でも特に注目を集めたのが、2025年5月18日に開催された有料の撮影イベント「東急電鉄9000系撮影会in鷺沼車庫」です。 このイベントでは、赤帯に復刻された9001Fをじっくりと撮影できる機会が設けられ、多くのファンが参加しました。
普段は入ることのできない車両基地で、思い出の車両を心ゆくまで撮影できる貴重な機会は、参加者にとって忘れられない思い出となったことでしょう。こうしたイベントは、車両の引退をただ惜しむだけでなく、ファンと鉄道会社が一体となってその功績を称え、記憶を共有する素晴らしい場となります。今後も、引退に向けた記念グッズの販売など、さまざまな形で9000系を盛り上げる企画が期待されます。
ファンの反応と人気の理由
9000系の赤帯復活に対するファンの反応は、非常に熱狂的なものでした。SNSや鉄道情報サイトでは、復活した赤帯編成の写真が数多く投稿され、「懐かしい」「やっぱりこの色が一番しっくりくる」「東横線の思い出が蘇る」といった喜びの声が溢れました。 遠方から撮影に訪れるファンも多く、9000系がいかに多くの人々に愛されているかを改めて証明する形となりました。
東急9000系がこれほどまでに人気を集める理由は、どこにあるのでしょうか。一つは、その完成されたデザインです。シャープなステンレス車体に映える赤帯は、今見ても色褪せない美しさがあります。 また、VVVFインバータ制御が奏でる独特のモーター音も、ファンにとっては魅力の一つです。そして何より、東横線という多くの人々の日常を支えてきた路線で、長年にわたり主力として活躍してきたという「思い出」の力が大きいでしょう。青春時代を9000系と共に過ごした人々にとって、赤帯の9000系は単なる電車ではなく、かけがえのない記憶の一部なのです。
新たな舞台で活躍する元9000系たち
東急電鉄での役目を終えつつある9000系ですが、その歴史はまだ終わりません。一部の車両は他の鉄道会社へ譲渡され、新たな活躍の舞台へと旅立っています。ここでは、東急を離れた9000系がどのような姿で第二の人生を歩むのか、その動向について見ていきましょう。
西武鉄道への譲渡とカラーリング
東急での引退が発表された9000系ですが、その多くは西武鉄道へ譲渡されることが決定しています。 これは、西武鉄道が環境負荷の少ないVVVFインバータ制御車両を他社から譲り受け、省エネルギー化を推進する「サステナ車両」という取り組みの一環です。 東急9000系は、西武鉄道の多摩川線、多摩湖線、西武秩父線、狭山線といった主に4両編成で運行される路線に導入される予定です。
譲渡後の形式名は「7000系」となり、そのデザインも発表されました。 カラーリングは、西武鉄道の30000系(スマイルトレイン)などでおなじみの青いグラデーション「西武ブルー」を基調としつつ、前面の窓周りが黒く塗装されるのが特徴です。 このデザインは、同じく東急から秩父鉄道へ譲渡された7500系(元東急8090系)のカラーリングに似ているとの声もあり、鉄道ファンの間で話題となっています。
秩父鉄道で活躍する兄弟車両
東急9000系そのものではありませんが、よく似たデザインの兄弟車両が既に秩父鉄道で活躍しています。それが秩父鉄道7500系・7800系です。これらの車両は、もともと東急東横線で9000系と共に活躍していた8090系を改造したものです。前面のデザインが非常に似ているため、鉄道ファンからは「兄弟」のように見なされています。
秩父鉄道へ譲渡された車両は、緑や青、黄色といったカラフルな帯に塗り替えられ、自然豊かな沿線風景の中を元気に走っています。西武鉄道へ譲渡される9000系が、この秩父鉄道の車両と顔を合わせる機会があるかもしれません。異なるカラーリングをまとった元東急の車両たちが、新たな土地で再会する光景は、鉄道ファンにとって胸が熱くなる瞬間となるでしょう。
なお、一部では9000系が秩父鉄道や富山地方鉄道へ譲渡される可能性も噂されましたが、現状ではほとんどが西武鉄道へ譲渡される計画となっており、西武以外への譲渡の可能性は低いと考えられています。
譲渡先での改造点と今後の展望
西武鉄道へ譲渡される9000系は、大井町線で活躍していた5両編成から中間車1両を抜き取った4両編成に改造されます。 これにより余剰となる中間車は、譲渡先での補修部品として活用される見込みです。また、走行に必要な機器類も大規模な更新工事が行われると見られており、外観だけでなく内部も西武線仕様に生まれ変わります。
2025年度以降に順次営業運転を開始する予定で、これにより西武鉄道の旧型車両が置き換えられ、全車両のVVVF化が達成される見込みです。 東急で約40年にわたり活躍した9000系が、最新の技術を取り入れながら、今後も20年近くにわたって活躍することが期待されています。 見慣れた赤帯の姿ではなくなりますが、日本の鉄道車両を長く大切に使う「サステナブル」な取り組みの象徴として、9000系はこれからも走り続けます。
まとめ:東急9000系の赤帯が語り継ぐもの

本記事では、「東急9000系 赤帯」をキーワードに、その輝かしい歴史から現在、そして未来の姿までを追いかけてきました。
1986年に東横線の花形としてデビューした9000系は、東急のコーポレートカラーである赤帯をまとい、一つの時代を象徴する車両となりました。 その後、副都心線との直通運転開始を機に大井町線へ転属し、帯色もオレンジのグラデーションへと変更されましたが、引退を前にした赤帯の復活は、多くのファンに感動を与えました。
そして、東急での役目を終えた後も、西武鉄道へ「サステナ車両」として譲渡され、新たなカラーリングで走り続けることが決まっています。
東急9000系の赤帯は、単なるデザインの一部ではありません。それは、昭和から平成、そして令和へと駆け抜けた車両の誇りであり、多くの人々の日常と青春の思い出が詰まった記憶の象徴です。その姿は変わっても、9000系が日本の鉄道史に刻んだ功績と、私たちに与えてくれた感動は、これからも語り継がれていくことでしょう。



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