瀬戸内海の穏やかな景色や、四国山地の険しい道のりを走り抜けるJR四国の車両たち。実は、そこにはユニークで魅力あふれる車両がたくさんあることをご存知でしょうか?
JR四国の路線にはカーブが多いため、カーブでも速度を落とさずに走れる「振子式(ふりこしき)」という特殊な機能を持った特急車両が活躍しています。また、子どもたちに大人気の「アンパンマン列車」や、四国の美しい自然と食を堪能できる豪華な観光列車など、乗ること自体が旅の目的になるような特別な車両もたくさん走っています。
この記事では、そんなJR四国車両の奥深い世界を、特急、普通列車、観光列車といったカテゴリーに分けて、それぞれの特徴や魅力を分かりやすくご紹介します。きっとあなたも、お気に入りの車両を見つけて四国を旅したくなるはずです。
JR四国車両の全体像とユニークな特徴
JR四国では、都市間を結ぶ速達性の高い特急列車から、地域の人々の大切な足となる普通列車、そして旅を特別な体験に変える観光列車まで、多種多様な車両が活躍しています。四国の地形や路線特性に合わせて、様々な工夫が凝らされているのが大きな特徴です。特に、カーブの多い路線を効率よく走るための技術は、JR四国の車両を語る上で欠かせない要素となっています。
四国を走る車両の多彩なラインナップ
JR四国に所属する車両は、大きく分けて「電車」と「気動車(ディーゼルカー)」の2種類があります。電車はパンタグラフから電気を取り入れてモーターで走る車両で、主に高松周辺などの電化されている区間で見ることができます。一方、気動車はエンジンを積んでおり、軽油を燃料にして発電した電気でモーターを回したり、エンジンの力で直接車輪を駆動させたりして走ります。
四国は山間部が多く、全ての路線を電化するのが難しいため、多くの区間でこの気動車が活躍しています。 JR発足後、国鉄時代から引き継いだ古い車両を積極的に新しいものに置き換えていった結果、JRの鉄道会社の中では車両の平均年齢が最も若くなった時期もありました。 そのため、JR四国が独自に開発した高性能な車両が数多く存在します。 形式名も、国鉄時代の「キハ」や「クハ」といった記号を使わず、8000系や2700系のように数字だけで表すものが多く、これもJR四国の特徴の一つです。
カーブに強い!「振子式」という秘密兵器
四国は山が多く、鉄道路線にはどうしてもカーブが多くなります。通常、列車はカーブにさしかかると遠心力で外側に引っ張られるため、安全のために速度を落とさなければなりません。しかし、それでは時間がかかってしまいます。この課題を克服するためにJR四国が導入したのが「振子式(ふりこしき)」という画期的な技術です。
これは、カーブを通過する際に、まるで自転車でカーブを曲がる時のように車体を内側に傾けることで、遠心力を打ち消し、速度を落とさずにスムーズに走り抜けることを可能にする仕組みです。 この技術を日本で初めて営業用の気動車に採用したのが、JR四国の2000系特急気動車でした。 この振子式車両のおかげで、四国内の都市間移動が大幅にスピードアップし、利便性が大きく向上したのです。 現在も、その後継である2700系気動車などにこの技術は受け継がれ、四国の特急ネットワークを支える重要な役割を担っています。
環境への配慮と未来への挑戦
JR四国は、環境負荷の低減にも積極的に取り組んでいます。その象徴ともいえるのが、新たに導入が計画されているハイブリッド式のローカル車両です。 この車両は、ディーゼルエンジンで発電した電気と、ブレーキをかけた時に発生するエネルギーを蓄電池に貯めた電気を組み合わせてモーターを回して走ります。
駅で停車する際にはエンジンを止める「アイドリングストップ」も行うことで、従来の気動車に比べて燃費を向上させ、二酸化炭素(CO₂)の排出量を約10%削減できると見込まれています。 また、エンジン音が静かになり、変速ショックもなくなるため、乗り心地も格段に向上します。 この新型車両は、2025年12月にまず量産先行車が登場し、試験走行などを経て2027年度から本格的に導入される予定です。 これにより、国鉄時代から長年活躍してきた古い車両が順次置き換えられ、より快適で環境にやさしい鉄道へと進化していくことになります。
JR四国の花形!都市間を結ぶ特急形車両

四国内の主要都市をスピーディーに結ぶ特急列車は、まさにJR四国の顔ともいえる存在です。各路線には、その特性に合わせた様々な特急形車両が投入されており、それぞれが個性的なデザインと性能を誇ります。ここでは、四国を代表する特急形車両を路線ごとにご紹介します。
【予讃線】瀬戸内海を望む「8000系・8600系」
岡山・高松と愛媛県の松山を結ぶ予讃線(よさんせん)は、JR四国で最も利用者の多い主要幹線です。この路線を走るのが、特急「しおかぜ」「いしづち」で活躍する8000系と8600系の電車です。8000系は、1992年に登場したJR四国初の特急形電車で、流線形の先頭車両が特徴的です。カーブを高速で通過できる「制御付き自然振子式」を採用しています。
一方、8600系は2014年に登場した新型車両で、蒸気機関車をモチーフにしたユニークなデザインが目を引きます。こちらは振子式ではなく、空気ばねを利用して車体を傾ける「空気ばね式車体傾斜装置」を搭載しており、乗り心地の向上が図られています。座席にはコンセントが設置されるなど、現代のニーズにも対応しています。また、一部の8000系車両は「予讃線8000系アンパンマン列車」として、虹をテーマにしたカラフルなデザインで運行されており、子どもたちに大人気です。
【土讃線】四国山地を越える「2700系」
岡山と高知県の宿毛(すくも)を結ぶ土讃線(どさんせん)は、険しい四国山地を越えるため、急カーブと急勾配が連続する難所です。この過酷な路線でエースとして活躍するのが、特急「南風(なんぷう)」「しまんと」「あしずり」で使われる2700系気動車です。 この車両は、世界で初めて振子式を採用した気動車2000系の後継として2019年にデビューしました。
2700系は、その2000系で培われた「制御付き自然振子式」の技術をさらに進化させ、より乗り心地を改善しています。 最高速度は130km/hに達し、力強い走りで山道を駆け抜けます。 外観は、日本の伝統意匠を現代的にアレンジした「ネオ・ジャポニズム」をコンセプトとし、ディープレッドとゴールドのラインが印象的です。
また、土讃線では「あかいアンパンマン列車」と「きいろいアンパンマン列車」の2種類のアンパンマン列車もこの2700系で運行されており、車内には専用の「アンパンマンシート」が設けられています。
【高徳線】俊足で駆け抜ける「2600系・N2000系」
高松と徳島を結ぶ高徳線(こうとくせん)では、主に特急「うずしお」が活躍しています。この路線で中心となっているのが、2600系とN2000系気動車です。2600系は、2700系に先駆けて2017年に登場した特急形気動車です。こちらは振子式ではなく、8600系と同様の「空気ばね式車体傾斜装置」を搭載しています。
しかし、土讃線のようなさらにカーブの多い区間では、この方式では性能を十分に発揮できないことが判明し、2600系の量産は見送られ、振子式の2700系が開発されるきっかけとなりました。 そのため、2600系は4両のみ製造された希少な車両となっています。一方のN2000系は、名車2000系を高速化に対応させた改良版で、長年にわたり高徳線の主力として活躍してきました。最高速度130km/hの俊足を生かし、高松~徳島間を最速1時間弱で結びます。
【牟岐線・徳島線】ベテランの風格「キハ185系」
徳島から南へ向かう牟岐線(むぎせん)の特急「むろと」や、徳島と阿波池田を結ぶ徳島線(とくしません)の特急「剣山(つるぎさん)」では、国鉄時代に製造されたキハ185系気動車が今も現役で活躍しています。この車両は、もともと急行列車用として設計されましたが、民営化後に特急用に改造された経歴を持ちます。
ステンレス製の車体に緑色の帯を巻いた姿は、どこか懐かしさを感じさせます。振子式などの特殊な装置はありませんが、その頑丈な作りと信頼性で、長きにわたり四国のローカル特急を支え続けています。特急運用だけでなく、早朝には予讃線の普通列車として走ることもあり、特急車両に普通運賃で乗車できる貴重な機会となっています。
地域の足を守る!普通列車・近郊形車両
通勤・通学や地域の人々の暮らしに欠かせないのが、各駅に停車しながら走る普通列車です。JR四国では、電化区間と非電化区間、それぞれの特性に合わせて様々な車両が使われています。国鉄時代から走り続けるベテランから、最新の技術を取り入れた新型まで、その顔ぶれは実に多彩です。
【電化区間】高松都市圏の主力「7000系・7200系」
JR四国で唯一電化されている、予讃線の高松~観音寺間と土讃線の多度津~琴平間。このエリアで主力として活躍するのが、7000系と7200系の2形式です。
7000系は、片側にしか運転台がないユニークな構造で、1両での単独運転から、ラッシュ時には複数両を連結して柔軟に運用されます。一方の7200系は、国鉄時代に製造された121系電車を大幅にリニューアルした車両です。 足回りの制御装置を最新のものに交換し、省エネ性能と乗り心地を向上させました。見た目は昔ながらの面影を残しつつも、中身は最新技術という、まさに「温故知新」を体現した車両と言えるでしょう。これらの車両が、高松都市圏の通勤・通学輸送を支えています。
【非電化区間】JR世代の標準車両「1500形・1000形」
四国の大部分を占める非電化区間では、JR発足後に製造された新しい世代の気動車が広く活躍しています。その代表格が1500形と1000形です。1500形は、環境に配慮した「コモンレール式エンジン」を搭載し、排気ガス中の有害物質を低減しています。車内は段差のないユニバーサルデザインとなっており、車いす対応の大型トイレも備えています。
徳島地区を中心に運用されています。一方、1000形はJR四国で最初に作られた一般形気動車で、軽量なステンレス車体とパワフルなエンジンが特徴です。四国全域でその姿を見ることができ、まさに非電化区間の標準車両として、ローカル輸送の根幹を担っています。
国鉄の香り残すベテラン「キハ40形・キハ47形」
全国のローカル線で活躍した国鉄時代の代表的な気動車、キハ40形・キハ47形。JR四国でも、徳島地区を中心にその姿を見ることができます。オレンジ色を基調とした国鉄一般色や、JR四国オリジナルのアイボリーに水色の帯を巻いた塗装など、様々なカラーリングが楽しめるのも魅力の一つです。製造から40年以上が経過し、老朽化が進んでいることから、先述の新型ハイブリッド車両の導入によって、少しずつその数を減らしていくとみられています。
ボックスシートに揺られながら、エンジン音に耳を傾ける旅は、鉄道ファンならずとも心に残る体験となるでしょう。乗車するなら今のうちかもしれません。
ローカル線を支える個性派たち「キハ32形・キハ54形」
より利用者の少ないローカル線では、小型で経済的な車両が活躍しています。キハ32形とキハ54形は、どちらも国鉄の分割民営化を前に、経営基盤の弱い北海道・四国・九州向けに特別に製造された車両です。 キハ32形は、バスの部品などを活用してコストを抑えた「レールバス」と呼ばれるタイプの車両で、非常にコンパクトな車体が特徴です。
予土線(よどせん)の「鉄道ホビートレイン」(0系新幹線を模した車両)など、ユニークな観光列車に改造された車両も存在します。 キハ54形は、キハ32形よりは一回り大きいものの、こちらもシンプルな構造の車両です。主に予讃線の松山以西や予土線で活躍しており、四国の閑静なローカル線の風景によく似合います。
乗ること自体が目的になる!個性豊かな観光列車
JR四国は、単なる移動手段としてだけでなく、乗車そのものを楽しむ「観光列車」の運行に非常に力を入れています。 四国の美しい自然景観や、地元の食材をふんだんに使った食事、そして心温まるおもてなしが一体となった列車の旅は、忘れられない思い出になること間違いなしです。ここでは、代表的な観光列車をご紹介します。
絶景と美食の協演「伊予灘ものがたり」
「伊予灘ものがたり」は、愛媛県の松山駅と伊予大洲・八幡浜駅の間を、日本で最も海に近い駅の一つとして知られる下灘駅などを経由して走る、大人気の観光列車です。 車窓からは、穏やかで美しい伊予灘の絶景を心ゆくまで楽しむことができます。 車両は2022年にリニューアルされ、レトロモダンをコンセプトにした豪華な内装が特徴です。
運行時間に合わせて、地元の食材を活かしたモーニング、ランチ、アフタヌーンティーなどが提供され、美しい景色を眺めながら優雅な食事の時間を過ごせます。 また、沿線の住民の方々が手を振って歓迎してくれるなど、地域一体となった温かいおもてなしも「伊予灘ものがたり」の大きな魅力です。
渓谷美を駆け抜ける「四国まんなか千年ものがたり」
香川県の多度津駅から徳島県の大歩危駅まで、美しい渓谷で知られる吉野川に沿って走るのが「四国まんなか千年ものがたり」です。 コンセプトは「おとなの遊山(ゆさん)」。和モダンで落ち着いた雰囲気の車内で、大歩危・小歩危(おおぼけ・こぼけ)のダイナミックな渓谷美を眺めながら、地元の名店が監修したこだわりの創作料理を味わうことができます。
列車は景色の良い場所では速度を落として走行し、絶景ポイントでは一時停止してくれるなど、乗客を楽しませる工夫が随所に凝らされています。車内ではアテンダントによる沿線の案内や、記念撮影のサービスもあり、まさに至れり尽くせりの時間を過ごせる観光列車です。
幕末の志士に思いを馳せる「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」
高知駅から土佐くろしお鉄道の窪川駅まで、坂本龍馬をはじめとする幕末の志士たちが駆け抜けた地を走るのが「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」です。車両のデザインは、蒸気船をイメージさせる黒を基調としたもので、文明開化期の世界観が表現されています。
車内では、カツオのタタキをはじめとする高知の郷土の味覚を盛り込んだ、ダイナミックな土佐流のおもてなし料理が楽しめます。雄大な太平洋や、清流・仁淀川(によどがわ)の美しい景色を眺めながら、歴史に思いを馳せる旅は、他では味わえない特別な体験となるでしょう。
子どもたちの夢を乗せて走る「アンパンマン列車」
JR四国を語る上で絶対に外せないのが、作者やなせたかし先生の故郷が四国である縁で誕生した「アンパンマン列車」です。2000年に土讃線で運行を開始して以来、四国各地で様々な種類のアンパンマン列車が走り、子どもから大人まで多くの人々に愛され続けています。
主なアンパンマン列車
- 土讃線 あかい・きいろいアンパンマン列車: 岡山~高知・宿毛間を走る特急。2700系を使用。
- 予讃線 8000系アンパンマン列車: 岡山・高松~松山間を走る特急。虹のデザインが特徴。
- 予讃線 宇和海アンパンマン列車: 松山~宇和島間。車両に大きなアンパンマンたちの顔が描かれています。
- 瀬戸大橋アンパンマントロッコ: 岡山~高松・琴平間。窓のないトロッコ車両で瀬戸大橋の絶景と風を感じられます。
- ゆうゆうアンパンマンカー: 徳島線の特急に連結されることがある、プレイルーム付きの車両。
これらの列車は、外観だけでなく、座席や天井、カーテンに至るまでアンパンマンの世界が広がる内装が魅力です。 高松駅や高知駅には記念撮影ができるスポットも用意されており、列車に乗る前から旅の楽しみが始まります。
まとめ:JR四国車両の魅力を再発見!列車でめぐる四国の旅

この記事では、JR四国で活躍する多種多様な車両たちを、特急、普通列車、観光列車というカテゴリーに分けてご紹介しました。
四国の厳しい地理的条件を克服するための「振子式」という独自の技術、子どもたちに大人気の「アンパンマン列車」、そして四国の魅力を五感で味わえる豪華な「ものがたり列車」シリーズなど、JR四国の車両には機能性と楽しさが詰まっています。
普段何気なく利用している列車にも、実は様々な歴史や工夫、そして開発者の想いが込められています。次に四国を訪れる際は、ぜひ乗車する車両にも注目してみてください。きっと、あなたの鉄道旅がより一層深く、思い出深いものになるはずです。



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